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2022.2.24

【体感!日本の伝統芸能】歌舞伎を深掘りvol.3―役柄は「顔」に表れる

東京・上野の東京国立博物館 表慶館で3月13日まで開催されているユネスコ無形文化遺産特別展「体感!日本の伝統芸能-歌舞伎・文楽・能楽・組踊の世界―」。

大泥棒・石川五右衛門が鎮座まします歌舞伎コーナーの最初の部屋を堪能し、ふたつ目の部屋に足を踏み入れる。左手にドンとあるのが、歌舞伎の化粧「隈取」を特集したコーナーだ。筋隈、一本隈、二本隈……時代物の狂言でよく見る「隈取」の数々が展示されている。

いつも思うことなのだが、歌舞伎ほどイメージが整理され、系統だってルール化されている芝居は、世界に例がないだろう。かつら、衣装、小道具に舞台装置……役者連の化粧もその一つである。それが端的に表れているのが、「隈取」なのだ。

自分自身でまずはベースの色から
歌舞伎の化粧は、様々な役柄を表す。これは「若い二枚目」に使われる「むき身(隈)」

「隈取」をする役者は、まず自分自身で顔全体を一つの色で塗りつぶす。白、赤、肌色といったベースになる色を「地色」という。その地色を塗った顔に線を引き、地色と線の境界線を指で伸ばしてぼかしていく。この作業を、「隈を取る」といい、地色の上に描かれたこの装飾を「隈取」というのである。その装飾をどのような形にするか、色にするかで「筋隈」とか「一本隈」とかの種類があり、その「隈取」に応じて役柄の性質が決まってくる。

一本隈
二本隈

「もっともシンプルな『むき身(隈)』は若い二枚目を表現しています。『一本隈』は若々しいヒーローだけど、ちょっとやんちゃっぽい。『二本隈』は同じヒーローでも堂々としたオトナの役ですね。それぞれ『菅原伝授手習鑑』の『車引』に出てくる桜丸、『賀の祝』の梅王丸、『車引』の松王丸をイメージしてもらえれば分かりやすいでしょうか」と国立劇場を運営する日本芸術文化振興会の大和田文雄理事。

同じ梅王丸でも『車引』だと、より派手な「筋隈」を取る。超人的な力が強調されるわけだ。「昔は『隈を取るときは一気呵成かせいに』と言われていたようです。丁寧にキレイにやるより、力強く勢いがある方がいい、ということでしょう。今はアップの映像もあるので、なかなか『勢いがあれば、それでいい』とはいかないのでしょうが」と大和田理事は付け加える。

ベースの色も役柄に合わせて
赤っ面のむき身(隈)

「隈取」が表現しているのは、筋肉の隆起であり、血管の膨張。つまり「力」。もともとは「荒事」を創始した初代市川團十郎が始めたものなのだ。

白く地色を塗った顔に「赤い血汐」の紅隈を取るのは、正義感にあふれたヒーローたち。ちょっと形が変わって、「猿隈」とか「鯰隈」のように剽軽ひょうきんな感じになると、それは「戯隈ざれぐま」=ふざけた隈取となり、道化っぽい役に使われる。

地色を赤にするのは悪人や敵役の手下の乱暴者「赤っ面のむき身」。隈の色が青になると「公家荒」といい、国を転覆させるような大悪人を示す。「赤い血が流れていない、不気味なヤツ」なわけだ。地色が茶色っぽくなり、そこに茶色の隈取「茶隈」をするのは、「この世のものではない」妖怪や悪霊なのである。

公家荒(藤原時平)

「今は演じられなくなった古い芝居を復活させるとき、初演当時の錦絵を見て役者がどんな隈を取っているかは、重要な情報になります」と大和田理事。

「基本的なルールはありますが、役者さんたちは『隈取をどういう風に描いたら自分の顔に合うか』も工夫しながら舞台に臨んでいます。だから同じ隈取でも、細かく見ていくと人それぞれで、数限りなくあるのです」ともいう。浮世絵に登場する舞台のヒーローたち。その姿をそんな視点から見るのも面白いかもしれない。

半道敵。敵役だが滑稽味のある役柄だ
変化隈(土蜘蛛)

(事業局専門委員 田中聡)

※写真はいずれも国立劇場提供

小道具・大道具や衣裳も間近で体感! 「伝統芸能展」の日程などは公式サイトでご確認ください → https://tsumugu.yomiuri.co.jp/dentou2022/

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