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2022.2.15

【体感!日本の伝統芸能】歌舞伎を深掘りvol.1―石川五右衛門のアタマ 「百日」の意味

東京・上野の東京国立博物館表慶館で3月13日まで開催されているユネスコ無形文化遺産特別展「体感!日本の伝統芸能-歌舞伎・文楽・能楽・組踊の世界―」。日本の伝統芸能の魅力を伝えるこの展覧会で紹介されているのは、舞台で使われている様々な「モノゴト」だ。衣裳や小道具、楽器や面、そして具体的な化粧の方法……それが舞台上の表現とどのようにかかわって来るのか――。展示されている「モノゴト」を例にとって、「歌舞伎」の世界をちょっとだけ深掘りしてみよう。(事業局専門委員 田中聡)

アタマで分かる「悪党の中でもかなりの大物」
中村芝翫さんが演じる「金門五三桐」の石川五右衛門(国立劇場提供)

「絶景かな、絶景かな。春の眺めは値千金とは小せえ小せえ。この五右衛門には値万両、最早陽も西に傾き、誠に春の夕暮れに、花の盛りもまた一入ひとしお、はてうららかな、眺めじゃなあ」――。

歌舞伎のコーナーに足を踏み入れると、まず目に入るのが、このセリフの主、石川五右衛門の姿である。人気狂言『金門きんもん五三桐ごさんのきり』の一場面。京都・南禅寺の山門、中央にデンと鎮座する大泥棒。まあ、それにしても特徴的なのは、グワッとアタマを覆う剛毛、豪快に伸びきった髪の毛だ。

『金門五三桐』の石川五右衛門のかつら (国立劇場提供)

マネキンにかぶせてあるのだから、もちろんこれは「かつら」。俗に「百日」といわれるモノである。

「道を外れた大悪党などに使われますね。このアタマを見ると、悪党の中でもかなりの大物、ということになります」というのは、国立劇場を運営する日本芸術文化振興会の大和田文雄理事。では、なぜ「百日」なのか――。

『孤高勇士嬢景清』の悪七兵衛景清のかつら。「百日垂れ」と呼ばれている(国立劇場提供)

「遠山の金さん」とか「暴れん坊将軍」とか、とにかくテレビでおなじみの時代劇を思い出していただきたい。将軍さまでもお侍さんでも、大工のクマさん八つぁんも、江戸時代の男性は、みんなまげを結っていた。

キレイに髷を結うためには、額の上、アタマの真ん中あたりを剃らなければいけない。青々と剃った部分、それを月代さかやきという。月代をキレイに整えておくことも、当時の人々にとってはおしゃれのひとつ、というか身だしなみのひとつ、だったのだ。

その月代を剃らずにいたら、どうなるか。瞬く間に髪が伸びてきて、そこの部分も黒々としてしまう。そんなことをするのは、裏店に住む貧乏浪人とか生活の乱れたばくち打ちとか、とにかく世間一般の規範を守れなかったり、守らなかったりする人たち。

『鳴神』の鳴神上人のかつら。「総髪なでつけ」なので、月代は剃っていない(国立劇場提供)

医者とか兵法者は、「総髪」といって月代を剃らないが、その「総髪」も「特別な職業」の象徴だったりする。つまり、月代を伸ばしている「かつら」の登場人物は、とりあえず「普通ではない」人たちなのである。

「百日」というのは、月代を「百日剃っていない」ということ。「とにかく長い間、月代を伸ばしっぱなしにしている」のだから、それだけ「世間一般の暮らしから離れている」わけだ。だからこそ、「百日」をつける五右衛門は「大悪党」なのである。

「百日」があれば「五十日」「三十日」もある!

「百日」があるのだから、「五十日」や「三十日」もあるわけで、「三十日」の悪党は、五右衛門に比べると格下なんだなあ、と思えばいい。ちなみに『弁天小僧』の日本駄右衛門などは、最初の登場で「五十日」、大詰めで「百日」だったりもする。それだけ劇中で時間が経過したということか。存在感が増したということか。まあ、とにかくいろいろと芸が細かい。

同じ『鳴神』の鳴神上人だが、こちらは「百日いがぐり」 (国立劇場提供)

「どのかつらを使うかで、役の印象が変わってくる。かつらの持つ意味は大きいんです」と大和田理事。

「立役」のかつらは約1000種類。人毛が使われるだけでなく、クマやヤクといった動物の毛も使われていたりする。ビロードなどの布を使うこともある。繊細で緻密、とにかく奥の深い世界なのである。

石川五右衛門のかつらも間近で体感! 「伝統芸能展」の日程などは公式サイトでご確認ください → https://tsumugu.yomiuri.co.jp/dentou2022/

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