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2026.4.30

【加賀前田家の歴史 百万石の遺産1】文化大名の歩み 金沢の基礎

重要文化財の前田育徳会図書閲覧所の前に立つ前田利宜さん(2月2日、東京都目黒区で)=今利幸撮影

加賀前田家の文化財を守り伝える公益財団法人「前田育徳会」は今年、創立100周年を迎えた。藩政期の前田家は、京都から名工を招いた「御細工所」の設置など、文化政策に力を入れたことで知られる。特別展でも展示されるきらびやかな武具や工芸品、金沢城跡や江戸屋敷跡に残された堂々たる石垣や建物から、百万石の威風を感じ取ることができる。(多可政史)

文化財公開 先祖の夢継ぐ - 19代当主・前田利宜さんに聞く

2023年に父で18代当主の利祐さんから家督を継承した。「当主といっても普通のサラリーマンをやっていますので。親しみやすい存在であるべきだと思っています」。重責にも、その語り口は自然体だ。金沢市の初夏の風物詩「金沢百万石まつり」や、歴代藩主の顕彰祭などに参加し、加賀百万石の文化と伝統を発信している。

まえだ・としたか 1963年生まれ。東京都出身。上智大卒業後、三菱商事に入社。ブラジルやサウジアラビアなどで海外駐在を経験。2020年から京都市の老舗喫茶店チェーン「イノダコーヒ」社長を務める。前田家の当主交代は34年ぶり。生前の家督継承は1866年以来157年ぶりとなる。

今回、東京では60年ぶりとなる大規模なコレクション展の開催に踏み切ったのも大きな決断だった。かねて、歴代当主が守り継いできた文化財の価値を広く伝える大切さを認識してきた。「文化財の維持や研究に引き続き取り組みつつ、公開の機会も増やしていきたい。特別展はそのきっかけになると思っています」

前田家と言えば、まずは藩祖の利家が思い浮かぶ。「尾張(愛知県)から出て乱世の時代に懸命に戦い、織田信長に認められて国持ち大名になった。盤石な加賀藩の礎を築いた」。武勇を伝える黄金の甲冑かっちゅうや国宝の刀は特別展の目玉だ。ライバルの佐々成政と対峙たいじした「末森の陣」に着用したと伝わる陣羽織は、正妻の芳春院(まつ)が細工したとも言われる。「紡ぐプロジェクト」の助成事業で2019~21年に修理されてから、初の公開となる。

「前田利家画像」 江戸時代・慶長10年(1605年) 前田育徳会蔵 通期展示

2代利長は母のまつを江戸に人質に出すなど、徳川家との関係強化に腐心しつつ、加賀、越中、能登の3か国で120万石もの石高を誇るまでになった。こうした国力を背景に3代利常は書画や舶来の文物の収集に力を入れ、その蔵書量は「天下の書府」と称された。5代綱紀は全国の工芸技術を見比べるために標本「百工比照ひゃっこうひしょう」を作らせた。「歴代当主は文化芸術に力を入れることで江戸の警戒心を解いた。『文化大名』としての前田家の歩みが今の金沢の基礎になっている」

「前田綱紀画像」下村観山筆 明治時代・20世紀 前田育徳会蔵 通期展示

近代以降、前田家は金沢から東京に拠点を移し、侯爵家となる。関東大震災の惨状に直面した16代利為としなりは文化財保全の必要性から前田育徳会の前身となる育徳財団を創立。欧州諸国歴訪の際には、フランスの彫刻家フランソワ・ポンポンの作品や、作曲家バッハの自筆楽譜など欧州の美術品のコレクションも拡充した。

「前田利為画像」 フェルディナン・ウンベール筆 フランス・1922年 前田育徳会蔵 通期展示

陸軍の要職を務めた利為は1942年、ボルネオ守備軍司令官として赴任した地で死去する。生前には先祖伝来の品々を紹介する博物館を開館する目標を持っていたという。「不運にも戦死し、絶たれてしまった利為公の夢が一部とはいえ、今回の展示でかなったのではないか」

200件超のコレクションは「現当主の私も初めて見るものばかり」という。「実物を目にして、今まで以上に前田家を身近に感じていただければ、当主としてこれほどの喜びはない」

コレクション展 東京で60年ぶり

特別展「百万石!加賀前田家」 
【会期】〔2026年〕4月14日(火)~6月7日(日)。
  月曜休館(4月27日、5月4日を除く)。
  午前9時30分~午後5時(金、土曜と5月3~5日は午後8時まで)
【会場】東京国立博物館 平成館(東京・上野公園)
【観覧料】一般2300円、大学生1300円、高校生900円。
【主催】東京国立博物館、公益財団法人前田育徳会、
  NHK、NHKプロモーション、読売新聞社
【問い合わせ】050・5541・8600(ハローダイヤル)
【公式サイト】https://tsumugu.yomiuri.co.jp/kagamaedake2026/

(2026年4月5日付 読売新聞朝刊より)

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