
加賀前田家の文化財を守り伝える公益財団法人「前田育徳会」は今年、創立100周年を迎えた。藩政期の前田家は、京都から名工を招いた「御細工所」の設置など、文化政策に力を入れたことで知られる。特別展でも展示されるきらびやかな武具や工芸品、金沢城跡や江戸屋敷跡に残された堂々たる石垣や建物から、百万石の威風を感じ取ることができる。(多可政史)
東京大駒場キャンパスに隣接する旧前田家本邸洋館(東京都目黒区)は、前田育徳会の創設者である16代利為によって造られた。鉄筋コンクリート造りの2階建てで、昭和初期の上流華族の生活をうかがい知ることができる貴重な建造物として、2013年に国重要文化財に指定された。現在は東京都が管理している。


明治期も本郷にあった前田家本邸は、関東大震災後の復興計画に基づき、東京帝国大農学部があった現在地に移転した。玄関扉を開けると蛇紋石の柱やシャンデリアで彩られた重厚な広間が出迎える。チーク材の壁に囲まれた大食堂は
戦後は連合国軍に接収されたが、1975年以降に目黒区立駒場公園として管理されている。洋館は広々した芝庭や築山、外国の賓客をもてなした木造の和館がある公園の中心部に位置し、住民や観光客の見学スポットとして人気を博す。
2月26日には「前田育徳会」の創立100周年を記念した式典が洋館で行われた。藩政期の前田家を支えた一門である富山前田家、大聖寺前田家、七日市前田家の当主らも参加した。
同会の石田寛人理事長は「国宝22件、重要文化財77件を始めとする前田育徳会の品々は、たまたま残ったのではなく(歴代の当主が)文化の重要性を認識して懸命に残してきたもの。100周年を節目に、さらに着実に歩んでまいりたい」とあいさつした。来賓の都倉俊一・文化庁長官(当時)も「前田家の宝であるとともに日本の宝。後世に伝える努力に敬意を表したい」と同会の取り組みに対して賛辞を贈っていた。
江戸時代に、幕藩体制下で最大の外様大名として名をはせた加賀前田家。江戸の拠点である上屋敷は、現在の東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)にあった。
幕府から本郷邸を拝領したのは1616~17年頃。当初は下屋敷だったが、82年の大火事で全焼し、再建後に上屋敷となった。度重なる火災からの復興と、将軍の御成や、将軍の娘との婚儀など重要な儀礼に合わせて増改築された。特に将軍家斉の娘で、前田家13代斉泰の正室となる溶姫を迎え入れる際に建てられた御殿の正門である「赤門」は東大のシンボルとして広く認知されている。
1984年からキャンパス内の発掘調査を担うのが東大埋蔵文化財調査室だ。本郷周辺は以前から「弥生土器発見の地」として知られていたが、事前の試掘調査で江戸時代の御殿跡や石垣、
「前田家は近世の象徴的な大名。その屋敷跡を継続的に調査することで、江戸時代の考古学研究が進展する一助となった」。同調査室の堀内秀樹教授は語る。


使用後に廃棄された陶磁器の分析を通じ、近世遺物の年代を測る「編年研究」が進んだ。魚の骨の分析から、国元の金沢同様、多様な魚を豊富に摂取した屋敷の食生活の特徴が分かった。火災後に支藩の大聖寺藩の敷地から土を取り、本藩の屋敷の盛り土に充てた復興過程なども浮き彫りになってきた。
トイレ遺構の分析結果も興味深い。女性用のトイレには鉛の含有量が多く、
東大には近世史を専門とする文献史学の研究者に加え、動物学や年代測定など自然科学の研究者も大勢いる。「様々な分野から協力が得られるのが強み。学際的な発掘調査が早くから行われ、遺跡が持つ様々な価値を明らかにできた」
建てられてから、来年で200年がたつ赤門は現在、耐震工事で非公開となっている。近年の発掘により、赤門周辺で溶姫の住まい「御守殿」を区画する石組みの溝が見つかり、藩邸の他の溝に比べて広く、
これらの調査成果を東大の「歴史遺産」として発信しようと、展示会やシンポジウムの開催にも注力する。「加賀藩邸は江戸時代、地域のコアとしての役割を担ってきた。この地に密着した歴史を発信し、地域との連携強化につなげていきたい」と力を込める。

東大は2027年、創立150周年を迎える。節目のタイミングで改修を終えた赤門を再公開しようと、「ひらけ!赤門プロジェクト」で寄付を募っている。溶姫御殿の溝跡など、赤門周辺で発掘された遺構の保存展示も計画している。
東京都板橋区加賀は地名の通り、加賀藩ゆかりの場所だ。5代綱紀が幕府から6万坪の土地を拝領。藩主が参勤交代の際に登城用の正装に着替える場として使われたほか、国元の金沢城に隣接する兼六園同様、大きな池を中央に配した庭園も整備された。敷地拡張の結果、最終的に21万8000坪を超える、江戸の中でも最大規模の大名屋敷となった。
ペリー来航以降の軍事強化の必要性から、藩は江戸郊外にあった下屋敷を大砲製造所として活用。明治時代以降は国が管理し、下屋敷跡には1876年に国内初となる官営火薬製造所が設置された。

1903年に敷地内に陸軍所管の火薬研究所が発足した。その関連施設として昭和前期に建てられた燃焼実験室や爆薬理学試験室、貯蔵室といった建物や、火薬の性能を試験する約30メートルものコンクリート製の弾道管などが現存する。戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の接収を経て、跡地には工場や学校などが建設された。金沢出身の企業家、野口
研究所は既に移転しているが、板橋区は明治から戦後にかけて科学技術の発展に貢献した「工都・板橋」を象徴する地として2029年度までに「板橋区史跡公園(仮称)」として整備する。
特別展「百万石!加賀前田家」
【会期】〔2026年〕4月14日(火)~6月7日(日)。
月曜休館(4月27日、5月4日を除く)。
午前9時30分~午後5時(金、土曜と5月3~5日は午後8時まで)
【会場】東京国立博物館 平成館(東京・上野公園)
【観覧料】一般2300円、大学生1300円、高校生900円。
【主催】東京国立博物館、公益財団法人前田育徳会、
NHK、NHKプロモーション、読売新聞社
【問い合わせ】050・5541・8600(ハローダイヤル)
【公式サイト】https://tsumugu.yomiuri.co.jp/kagamaedake2026/
(2026年4月5日付 読売新聞朝刊より)
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