2026.6.5
特別展「神仏の山 吉野・大峯 ─蔵王権現に捧げた祈りと美─」奈良国立博物館

日本古来の山岳信仰に神道や仏教などが融合(神仏習合)し、日本独自の発展を遂げた宗教である修験道。その発祥地は、「
約1300年前に役行者(役小角)によって開かれた修験道、その祈りとは一体どのようなものなのでしょうか?日本独自の多様性を内包した祈りの真髄に奈良国立博物館(奈良市)の特別展 「神仏の山 吉野・大峯 ─蔵王権現に捧げた祈りと美─」で触れてみましょう。
さらに修験道は、その神仏習合・神仏混淆ゆえに、明治元年(1868)の神仏分離令によって起きた

修験道といえば、独特の装束を身にまとい、精進潔斎した山伏が険しい峰々を歩いて荒行に挑み、それによって得られた法力で加持祈祷を行う姿を思い浮かべます。
そのイメージの基となり、修験道の祖とされるのが7~8世紀に活躍した役小角(役行者)です。

役行者は、大峯山山上ヶ岳で一千日間、非常に過酷な修業を行い、
蔵王大権現を感得した役行者は、これにより人智を超えた験力を得たとされ、後世の説話などに見られる呪術を用いて前鬼・後鬼を使役した超人的なイメージが定着しました。

菩薩でも神でもない、役行者が感得した蔵王権現とはどのような存在なのでしょうか?修験道の根本道場である吉野山・金峯山寺の
役行者の祈りに応えて、釈迦如来・千手観音・弥勒菩薩の三尊が姿を変え、青黒身の

金峯山寺本堂・蔵王堂(国宝)には、像高7メートルにも及ぶ日本最大の青き秘仏本尊「蔵王権現像」3軀(重要文化財)がおられますが、同展で大型スクリーンによるVR映像で鑑賞することができ、まるで役行者が感得した時のような迫力を体感できるのでお見逃しなく。

山上ケ岳は、信仰上の理由から、女人禁制です。その由来は、役行者の母・


そのため、山上ヶ岳山頂の大峯山寺の参拝は、毎年5月3日の戸開式から9月23日の戸閉式までの間で、男性のみ可能なのですが、同展では、約1000年ぶりに女人禁制の山上ケ岳から蔵王権現6軀 (金色の秘仏含む)が降りてこられました。大峯山寺堂内を再現した空間で、老若男女すべての人が参拝できる本当に稀有な機会です。

写真右の「子守三所鏡像」は、願主が女性であり、願文に神前が女人禁制のため来世で男子となって参拝すること、弥勒の出現を願うと記されており、この女性がいかに強い思いを込めてこの鏡を供養したのかが伝わってきます。
女人禁制は、決して女性差別や男尊女卑的な考えではなく、地元では母を思う優しい心の現れとされています。五條管長は、以前の記者会見で「今の価値観で昔の人々の価値観や営み、祈りを判断する必要はないと思います。当時の営みがそのまま残っている、人々の祈りのひとつの形態がそのまま大峯山寺に残っただけなのです」と教えてくれました。

飛鳥時代、大海人皇子が吉野で挙兵し、皇位継承をめぐる「壬申の乱」のきっかけの地となったのが吉野でした。その後も各時代において、「吉野・大峯」は、常に特別な地であり続けました。
平安時代には、藤原道長などの貴族が篤く信仰し、金峯山を参詣しています。道長が埋蔵したとされる道長・師通(道長のひ孫)自筆の紺紙金字経(国宝)全18巻が修理後初公開中です。

南北朝時代には、後醍醐天皇が吉野を拠点として南朝を樹立し、志半ばでこの地で崩御しています。同展では、後醍醐天皇の陵墓を守る吉野山・如意輪寺の秘仏本尊「如意輪観音坐像」が寺外初公開され、注目です。
さらに安土桃山時代には、天下人の豊臣秀吉が盛大に吉野で花見を催しており、弟の秀長や子の秀頼が金峯山寺の蔵王堂をはじめとする堂宇の再興に大きな役割を果たしました。

山岳信仰と神仏混淆により、独自展開し、各時代において常に篤い信仰を集め続けましたが、明治政府による神仏分離政策により、明治5年(1872)に修験宗廃止令が発せられ、修験道は解体。修験者は還俗させられ、天台宗か真言宗のいずれかに帰属させられました。
吉野山の寺院が廃寺となる中、明治19年に岡倉天心が山内の仏像や神像を調査した記録が残っています。さらに大正4年、彫刻家で文化財修理の基礎を築いた
古写真を見ると、時代の荒波の中、修験宗廃止令(明治5年)から大正4年までの約40年間、元の寺院から離れても、地元の人々が大切な仏像を吉野山山内に「何とかして残したい」と願った強い思いが伝わってくるかのようです。

櫻本坊は存続のため、苦渋の決断をして、この諸仏を信心深い名古屋の篤志家へ譲与しましたが、戦後に多くが散逸し所在不明になっていました。
奈良博は、長年に渡り、吉野・大峯エリアを継続調査しており、古写真から吉野山伝来と判明した仏像もあります。
苦難を生きた人々が「残そう」とした思いと行動が現代の奈良博の調査成果として結びついた同展。私たち日本人の祈りの原点を垣間見た気がしました。
特別展 「神仏の山 吉野・大峯 ─蔵王権現に捧げた祈りと美─」
会場:奈良国立博物館 (奈良市登大路町50番地)
会期:2026年4月10日(金)~6月7日(日)
前期:4月10日(金)~5月10日(日) 後期:5月12日(火)~6月7日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日
観覧料:一般2,000円、高大生1,500円
※中学生以下無料
※障害者手帳またはミライロIDをお持ちの方(介護者1名を含む)は無料
※本展の観覧券で、名品展(仏像館・青銅器館)も観覧可能
問い合わせ:ハローダイヤル 050-5542-8600
アクセス:近鉄奈良駅下車徒歩約15分/JR奈良駅・近鉄奈良駅から市内循環バス(外回り)「氷室神社・国立博物館」下車すぐ

プロフィール
ライター
いずみゆか
奈良大学文化財学科保存科学専攻卒。航空会社から美術館勤務を経て、フリーランスライターに。関西のニュースサイトで主に奈良エリアを担当し、展覧会レポートや寺社、文化財関連のニュースなど幅広く取材を行っている。旅行ガイド制作にも携わる。最近気になるテーマは日本文化を裏で支える文化財保存業界や、近年復興を遂げた奈良県内の寺院で、地道に取材を継続中。
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