「仏の里」とも呼ばれる大分県・国東半島。急峻な山々に点在する天台宗の寺院群(六郷満山)は最盛期には65か所を数え、山岳修行の地として栄えた歴史をしのばせる。
最澄は中国に留学する前、旅の安全を祈って宇佐神宮(現在の大分県宇佐市)に参拝し、帰国後は法華経を講じて一帯に天台宗を広めたと伝わる。やがて宇佐神宮の八幡信仰と天台密教が結びつき、独特の神仏習合文化が形づくられた。
中でも長安寺(同県豊後高田市)が所蔵する重要文化財「太郎天及び二童子立像」は象徴的な存在だ。髪を左右に分けて束ね、手に榊の枝を持つ姿は「仏像」のイメージとはほど遠いが、像内に記された梵字などから修行者を保護する「不動明王」の化身とされる。もとは境内の奥にある社に安置されていたが、明治政府の神仏分離令によって同寺に移されたという。
住職の松本量文さんは「今も8月には寺で太郎天のお祭りを、9月にはお宮で地区の祭りをします。仏様と神様はもともと親戚のような存在。六郷満山ではほぼすべてが同居しています」と話す。
天台宗の僧侶たちが半島の霊場を巡る「峯入り」はおよそ10年に1度のペースで今も続く。最澄の教えは九州にも確かに息づいている。
(2021年10月3日読売新聞から)
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伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」 (yomiuri.co.jp)