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2022.6.28

【守り伝える 現場から】手仕事の糸よりで豊かな響き…邦楽器糸製作「丸三ハシモト」

糸原糸を巻き替える「繰り糸」

三味線やことなど邦楽器の糸(げん)を作る丸三ハシモト(滋賀県長浜市)は、1908年創業。化学繊維製が普及する中、絹糸製の楽器糸を手作業で作る数少ない生産者だ。

地元の保存会が手で繭から紡いだ生糸などを使う。織物用の生糸は繭を乾燥させて取るのが中心だが、楽器用の生糸は水分を含んだ繭から取る。糸に「セリシン」というたんぱく質が残り、弾力があるためだ。太さにばらつきがあるが、橋本英宗社長(47)は「同じ太さの繊維を束ねれば音が硬くなる。太い糸や細い糸が交じっていれば音は豊かになる」という。

太さが一定でないから、1本により合わせる原糸の量は、本数でなく重さで決める。「目方合わせ」と呼ばれる工程で、糸巻き機を手で回し、はかりで重さを確かめる。

原糸を一定の重さにそろえる「目方合わせ」をする橋本圭祐会長

同社は国内で唯一、「独楽撚こまより」の技術を伝承している。三味線の糸のうち、細く高音を出す「三の糸」は、機械でよると加減の微妙な調整が出来ず、音が飛びにくくなるという。「独楽撚り」は、束ねた原糸を約16メートルにわたって張り渡し、端にぶら下げた木製のコマを、職人が両手の板を使って回し、よっていく。ぶれないように回して「ふわーっと」より上げる力加減が難しい。

ぶら下がったコマを回して糸をよる「独楽撚り」(滋賀県長浜市で)=長沖真未撮影

よった糸はウコンで黄色く染め、のりと煮込んでよった糸と糸を接着して固定し、柱に張って自然乾燥させる。

柱に張って自然乾燥させる
ウコンで黄色く染められた糸

同社は、絹や化学繊維、太さも様々な、400種以上の糸を生産し、より具合を指定する一流演奏家の注文にも応える。橋本社長は「作り手が合理性を求めてしまえば、演奏家はどうにもできない。責任を持って、変えていいところと変えてはいけないところを区別しなければ」と話す。

三味線に張られた糸

三味線に糸を張り、鳴らしてもらった。ただ澄んだだけの音ではなく、雑味が陰影を生み心地良い。橋本社長の父で、国の選定保存技術保持者(邦楽器糸製作)である橋本圭祐会長(75)は、理想の音を「丈夫で、張りがあって、余韻があって、耳にさわりがいい音」と言い表す。ふぞろいの材料と、手仕事の丹精が、豊かな響きを守っている。 (文化部 清岡央)

(2022年6月5日付 読売新聞朝刊より)

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