歌舞伎や文楽などの伝統芸能は、役者の「芸」だけでなく、支える裏方技術者の「技」があってこそです。客席からは見えないところまで、丹精込めて作り上げる技を間近に見られる特別展「体感!日本の伝統芸能」(2022年1月7日~3月13日、東京国立博物館表慶館)にちなみ、歌舞伎俳優・尾上右近さんのインタビューと、歌舞伎衣装、文楽人形の仕事に迫ります。
歌舞伎は、それぞれの世界で伝統を受け継いできた職人技に支えられた「総合芸術」と言えます。例えば衣装やかつら。身につけることで女形なら性の越境、立役(男役)なら超人的な力を持った人物に変わる大きな力になります。大道具や、小道具もお客さまに非日常を味わっていただこうという気迫を感じます。
役者はそうした歌舞伎に携わる専門職の皆の思いを乗せて、お客さまという「向こう岸」まで届ける「船」のような役割。その船に欠陥があってはいけないという責任感が舞台に立つ原動力になっています。
歌舞伎の衣装はきらびやかで、ものすごく重量感があります。特別展では客席より近い距離で見ることで、細部に行き渡った美学や荒々しさ、スケール感をより感じていただけるのではないでしょうか。
色合いや組み合わせ、メイクを含めて、善悪といった登場人物の演出上の役割や心情までもが伝わってくる。衣装が表す意味合いを知ると、より深く楽しめる「知る喜び」があることも歌舞伎の特徴です。
デザインには自然の美しい風物「花鳥風月」の美意識が多く取り入れられています。季節の移り変わりとは一つの循環。歌舞伎の伝統もまた春夏秋冬に相当する時期があり、今に至るのではないかと思います。元々の娯楽から発展し、演劇として円熟し、日本を代表する文化となりました。
現在はそうした芸術性や高尚さに加え、エンターテインメント性など(時代に合わせた)多面的な魅力を改めて創っていかなければいけない時期が巡ってきているという感覚です。僕も今の時代を生きる歌舞伎役者として、一戦力になる決意を新たにしています。
特別展では歌舞伎をはじめ五大芸能について紹介します。能楽は歌舞伎より歴史が古い先行芸能で、目に見えない存在に対して芸を納めるといった神事としての一面が強いです。
個人的には興味深いのは雅楽です。もっと超越した、奥深い世界観を感じます。それぞれの芸能の関係性や違いを比較しながら見ていただくのもおもしろいかと思います。
◇おのえ・うこん 1992年、東京生まれ。父は清元宗家の清元延寿太夫、曽祖父は六代目尾上菊五郎。2005年、二代目尾上右近を襲名。18年、七代目清元栄寿太夫を襲名し、歌舞伎俳優と清元の「二刀流」で活躍する。
(2021年12月8日読売新聞から)
スタイリスト 三島和也(Tatanca)
ヘアメイク 晋一郎(IKEDAYA TOKYO)
ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感!日本の伝統芸能-歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界-」 (yomiuri.co.jp)
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