日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト
「海を渡った日本と皇室の文化」展には、14代将軍徳川家茂が贈った薙刀(なぎなた)、槍(やり)、明治天皇からの甲冑(かっちゅう)などが並び、約400年に及ぶ英国と日本の交流を伝える(イギリス・ロンドンのクイーンズギャラリーで)Royal Collection Trust 提供 © His Majesty King Charles Ⅲ 2022

2022.12.12

日英交流400年 海を渡った工芸

皇室と英王室 深いつながり

美と技は、人々の思いがあってこそ守り継がれます。400年に及ぶイギリスとの交流を通じ、日本の最高峰の工芸の技と美は、ロイヤルファミリーを魅了し、大切に保管されてきました。今月の「紡ぐプロジェクト」特別紙面は、英国・バッキンガム宮殿そばの「クイーンズギャラリー」で開催中の展覧会「海を渡った日本と皇室の文化」です。

日本とイギリスの交流は、徳川将軍家の慶長時代に始まった。後に皇室と英国王室が互いに訪問を続け親交を深めるようになるとともに、贈呈された日本の美術・工芸品が高く評価され、英王室、イギリス人を魅了した。「海を渡った日本と皇室の文化」は、鎖国、第2次世界大戦をはさみながら、脈々と今に続く日英交流の歴史と、皇室と王室の深いつながりがうかがえる展覧会だ。

小箪笥たんす
赤塚自得
1905年頃~07年(明治38年頃~40年)
明治天皇、皇后夫妻が、メアリー王妃へ戴冠たいかん式の祝いに贈呈
Royal Collection Trust 提供 © His Majesty King Charles Ⅲ 2022
「有蓋壺」
磁器 1690~1720年(元禄3年~享保5年)
装飾金具 1780~1820年
磁器は有田、肥前地方の作。装飾はフランス製。ジョージ4世がパリから買い付けたという
Royal Collection Trust 提供 © His Majesty King Charles Ⅲ 2022
「短刀 兼久」 1500年頃(明応9年頃)
さや」 関善定近則 1868~71年(明治元~4年)
明治天皇がエディンバラ公アルフレッド王子に贈呈
Royal Collection Trust 提供 © His Majesty King Charles Ⅲ 2022
 
展覧会を企画したレイチェル・ピートさん
Royal Collection Trust 提供 © His Majesty King Charles Ⅲ 2022
「鎖国」江戸時代も続いた収集

「海を渡った日本と皇室の文化」を企画したレイチェル・ピート担当キュレーターに、展示のねらいなどを聞いた。

英国王室には最高峰の日本の芸術作品が所蔵されている。今回の展覧会は、非常に貴重な作品を披露できる初の機会となった。

「兎形香炉一対」
1680~1720年(延宝8年~享保5年)
ジョージ4世が購入。展覧会には左の作品を展示
Royal Collection Trust 提供 © His Majesty King Charles Ⅲ 2022

英国王室と日本の皇室は深いつながりがあり、コレクションには皇室を象徴する菊の紋が刻まれたものも多くある。展示を通じて英国と日本、特に王室と皇室の他に類を見ないユニークな関係性と友情を伝えたい。

作品は美術館やギャラリーなど様々な場所に貸与されたほか、バッキンガム宮殿やウィンザー城など王室の邸宅でも展示された。

「三保から仰ぐ富士山」
吉田博
木版彩刷 1935年(昭和10年)
メアリー王妃が取得したとみられる
Royal Collection Trust 提供 © His Majesty King Charles Ⅲ 2022

例えば、明治天皇からビクトリア女王の息子アルフレッド王子に贈られた短刀は、(現国王の皇太子時代の公邸だった)クラレンスハウスに飾られた。ジョージ5世の妻メアリー王妃は日本芸術の愛好家で、美しいうさぎの磁器を気に入ってバッキンガム宮殿に飾っていた。

ロイヤルコレクションの所蔵品には、鎖国が続いていた江戸時代に王室メンバーが自ら収集したものもある。代々の王族が日本や日本の芸術を高く評価していたことも、保管されている手紙や日記から判明している。

「手箱」
白山松哉
1890年頃~1905年(明治23年頃~38年)
昭和天皇が女王エリザベス2世の戴冠式記念として贈呈
Royal Collection Trust 提供 © His Majesty King Charles Ⅲ 2022

今回の展覧会は、当初は2020年に開催する予定だったが、新型コロナで延期になった。今回開催できたことを非常にうれしく思う。

「ジンジャージャーのカーネーション」 
漆原由次郎(木虫)
1913年頃(大正2年頃) 木版彩刷
メアリー王妃が購入したとみられる
Royal Collection Trust 提供 © His Majesty King Charles Ⅲ 2022
 

作品細部まで味わえる工夫

日本語オーディオガイド、拡大動画

今回の展覧会が開催されているクイーンズギャラリーは、ロンドン中心部のバッキンガム宮殿のそばにある。見学者に無料貸与されるオーディオガイドは日本語版が特別に用意され、英語が苦手な観光客でも楽しめる。会場内で販売している図録にも邦訳版がある。

「海を渡った日本と皇室の文化」を開催中のクイーンズギャラリー(ロンドンで)=中西梓撮影

日本の芸術作品は表面や外側だけでなく、内側や裏面などにも美しい装飾が施されていることが多い。展示は、作品の細部まで味わえる工夫がなされている。

オーディオガイドの端末画面には、作品の装飾などを拡大した動画が流れる仕組みとなっている。鶴の刺しゅうが施された屏風びょうぶなど一部の作品はガラスカバーなしで展示され、その技巧と迫力を目の前で味わえる。会場では多くの見学者が屏風のそばに寄り、スマートフォンで撮影していた。展覧会は2023年2月26日まで。

クイーンズギャラリーの展示室
Royal Collection Trust 提供 © His Majesty King Charles Ⅲ 2022

ロイヤルコレクションには1000点以上の日本の芸術作品があり、今回の展覧会ではそのうち約150点が披露されている。見学は予約制。展示品以外はロイヤルコレクションのウェブサイトで楽しめる。

 
ウェールズ公エドワード王太子(左)と皇太子時代の昭和天皇。東京ゴルフクラブで(1922年4月)
Royal Collection Trust 提供 © His Majesty King Charles Ⅲ 2022

ロイヤルコレクションとは(The Royal Collection)

英王室が収集、保有する美術品コレクションは、美術のあらゆる分野に及びレオナルド・ダ・ビンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、レンブラントらの作品から、美術品以外の調度品、食器、宝石、武具まで100万点を超える。ベッド、壁掛けなど現在も王室で使われている調度品まで含むのが特徴だ。

ヘンリー2世(1133~89年)、リチャード1世(1157~99年)が戴冠たいかん式に使用した儀式用スプーンが最も古く、コレクションの大半はチャールズ2世(1630~85年)が集めたという。このため、美術館の系統だったコレクションとは異なり、500年に及ぶ歴代の国王の趣味嗜好しこうと日本の皇室など海外との交流を反映している。

1987年以降は英国王室府の一部門となったロイヤルコレクション・トラストが管理と一般向けの展示を担当、今回の展覧会「海を渡った日本と皇室の文化」を主催している。

◆英国と日本の交流
  • 1600年(慶長5年)  ウィリアム・アダムズが日本に漂着。記録に残る日本初上陸の英国人
  • 1613年(慶長18年)  イギリス東インド会社が、長崎・平戸に商館を開設。イングランド王ジェームズ1世の交易要請に徳川家康が許可の返書。日英初の外交交渉
  • 1623年(元和9年)  同館閉鎖
  • 1633年(寛永10年)  鎖国令発令
  • 1854年(嘉永7年)  日英和親条約締結
  • 1859年(安政6年)  ラザフォード・オールコック日本総領事が着任
  • 1868年(明治元年)  明治維新
  • 1869年(明治2年)  エディンバラ公アルフレッド王子が王室から初の来日
  • 1872年(明治5年)  アルフレッド王子が持ち帰った日本の美術工芸品の展覧会をサウス・ケンジントン博物館で開催
  • 1921年(大正10年)  皇太子時代の昭和天皇が訪英
  • 1922年(大正11年)  ウェールズ公エドワード王太子が来日
  • 1939~45年(昭和14~20年)  第2次世界大戦
  • 1953年(昭和28年)  皇太子時代の上皇さまがエリザベス女王の戴冠式に出席
  • 1971年(昭和46年)  昭和天皇が国賓として訪英
  • 1975年(昭和50年)  エリザベス女王が国賓として来日
                 ※展覧会の図録などを基に作成

(2022年12月6日付 読売新聞朝刊より)

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