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2022.5.17

【皇室の美】「色絵草花文花瓶」―花鳥の色絵 もてなしの器

皇室に受け継がれてきた品々を収蔵する宮内庁三の丸尚蔵館(東京・皇居東御苑)は、2021年度から収蔵品の展覧会を各地で開催しています。優品の数々や開催地にゆかりのある作品を通して、皇室と地方との縁を感じてもらうねらいです。展覧会開催に合わせて連載「皇室の美」をスタートしました。展覧会に出品する名品の魅力、皇室にもたらされた由来など、同館学芸員が解説します。

色絵草花文花瓶(いろえそうかもんかびん)
幹山伝七 明治時代前期(19世紀後期) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵
色絵草花文花瓶(いろえそうかもんかびん)部分

愛知県瀬戸市は古くよりわが国を代表する陶磁器の産地として知られている。やきものを指す言葉である「瀬戸物せともの」の由来となった土地であり、2017年には他の五つの産地(越前、常滑、信楽、丹波、備前)とともに日本六古窯こようとして文化庁の日本遺産に認定された。

幕末から明治時代にかけて、その瀬戸から旅立ち成功を収めた陶工がいる。華やかな花鳥を描いた色絵磁器で知られる幹山かんざん伝七でんしち(1821~90年)である。

幹山は、彦根藩主井伊直弼が保護奨励した「湖東焼」でまず頭角を現し、井伊が桜田門外の変で暗殺され湖東焼が廃窯すると京都へと移った。それまで京都にはなかった瀬戸式の登り窯で大型の磁器の焼成も巧みにこなし、京都では初めて磁器を専業とする陶工として知られるようになった。

色絵いろえ草花文そうかもん花瓶かびん」は、純白の素地きじに色絵と金彩を用いた繊細な絵付けによって、春霞はるがすみが漂う中、色彩鮮やかな花々のあいだを野鳥が自由に飛び交う様子を描いた花瓶である。

1895年に明治天皇から皇太子であった大正天皇へ贈られたとの伝来があり、高さ51.5センチという大きさから、現存する幹山のなかでも最大級の作品である。

「色絵四季草花図食器」
幹山伝七 明治時代前期(19世紀後期) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵

磁器製作の技術のみならず、この色絵と金彩を組み合わせた写実的な花鳥の絵付けが幹山の真骨頂だが、有栖川宮家のために作られた和食器の一揃いもまた格別の逸品である。

注目すべきは、約600点にのぼる12種類の器の一点一点にすべて異なる草花の絵付けがほどこされている点だ。

それまでの日本陶磁には類例のないスタイルの食器であり、宮家のために特別にあつらえられたのだろう。まさに客人に口福と眼福の両方をもたらすおもてなしの器にこそ相応ふさわしい。

(宮内庁三の丸尚蔵館主任研究官 岡本隆志)

◆宮内庁三の丸尚蔵館所蔵 皇室の名品―愛知ゆかりの珠玉の工芸―
【会期】6月4日(土)~7月31日(日)
【会場】瀬戸市美術館(愛知県瀬戸市西茨町)
【主催】瀬戸市美術館、(公財)瀬戸市文化振興財団、宮内庁
【特別協力】文化庁、紡ぐプロジェクト、読売新聞社
【問い合わせ】0561・84・1093

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