展覧会には、「秘仏」とされる仏像も多く展示される。「秘仏」とはどんな仏像のことをいうのか、奥健夫・文化庁主任文化財調査官(彫刻部門)に聞いた。
秘仏とは厨子と呼ばれる堂内に設けられた小宮殿に納められたり、前方に帳を懸けられたりして人目から遮断されて
普段は人目から隠しておいて、まれに公開するというのは、礼拝像において神秘性を演出するための有効な手段でした。扉を開けたり帳を上げたりして像が目に触れる瞬間は、聖なる存在が目の前に姿を現すという現象を擬似的に体験させられるからです。
由緒ある寺院に祀られる本尊は、その像ならではの霊験が人々に語られ、そうした本尊を祀る寺院は霊場として人々の参詣の対象となります。霊場の本尊は多くが秘仏とされました。
霊場には本尊である仏菩薩の化身が人間の姿で出現し、それに出会うことで将来の往生が約束されると信じられたのです。隠す扉や帳の向こうに隠れてみえない本尊を拝む人たちは、「本尊がそこから抜け出して自分の周りにいるかもしれない」という思いを抱いたことでしょう。
秘仏の中にはたいへん保存がよいものもあります。それは外気から遮断されて大切に守られてきたためです。その一方で、傷んで原形をとどめないような像が秘仏として伝えられることもあります。
鎌倉時代の僧、無住はその著書『沙石集』でそのことについて「古い仏像は、ただそのままの姿で崇めるのが一つのありようだ」と言い、「戸帳を懸けて隠しておくほうが、行者の信心を起こさせるのだ」と説明しています。このような「ただそのまま」の姿を尊ぶ考え方は仏像修理にも及んでおり、時代により程度の差はあれ、現在の文化財修理にまで及んでいるということができます。
奥健夫(おく・たけお) 1964年生まれ。東京大大学院修了。文化庁美術工芸課技官などを経て現職。主な著書に「仏教彫像の制作と受容」。
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「国宝 聖林寺十一面観音」 https://tsumugu.yomiuri.co.jp/shorinji2020/
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