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2022.2.17

【体感!日本の伝統芸能】歌舞伎を深掘りvol.2―キセルで分かる身分や性格

中村芝翫さんが演じる『金門五三桐』の五右衛門。大きなキセルもトレードマークだ(国立劇場提供)

「絶景かな、絶景かな」でおなじみ、石川五右衛門。東京・上野の東京国立博物館表慶館で3月13日まで開催されているユネスコ無形文化遺産特別展「体感!日本の伝統芸能-歌舞伎・文楽・能楽・組踊の世界―」の歌舞伎コーナーで目立つのは、何といっても、『金門きんもん五三桐ごさんのきり』の舞台装置である。五右衛門の独特のヘアスタイルについては前回のコラムでちょっとだけ深掘りしてみたが、もう一つ目立つのが、右手に持った大きなキセルだ。

豪胆さの象徴のキセル 実用には不向き?
五右衛門の持っているキセル
『引窓』の濡髪長五郎のキセル。これが普通の大きさだ。刀とそれぞれ比べてみると、大きさの違いがよくわかる

胴の部分がねじねじしている「手綱型」のこのキセル、「これだけ太いと、本物なら重いでしょうから、喫煙具としては実際に使えるかどうか」というのは、国立劇場を運営する日本芸術文化振興会の大和田文雄理事だ。「実用品というよりも、五右衛門の豪胆さ、強さの象徴なんですよ」

形や持ち方に注目

花魁おいらんの持つ長ギセル、懐に入るナタマメ型……歌舞伎で使われるキセルにはいろいろな形がある。

身分によってその持ち方も変わってくる。大名は銀延べの長いキセルを肘を張って持っているし、町人は筆を持つように人差し指と中指の間に羅宇(竹製のキセルの軸)をはさんでいる。火皿の下をつまむようにして持っているのは、お百姓さん――。どんなキセルをどんな風に持っているかで、その役どころがわかってくる。

『関扉』の関兵衛のキセル。太くて豪快
『直侍』の三千歳のキセル。いかにも花魁の持ち物らしい

演出上のアクセントにもなる。「御新造さんへ、おかみさんへ、いやさお富、久しぶりだなあ」で有名な『お富与三郎』。お富がポンとキセルで灰吹きを叩くのが、この名セリフのきっかけだ。『伊勢音頭』では仲居の万野が主人公の貢にプッと煙を吹きかける。いかにも意地悪な感じがしていいのである。

吉原では、「花魁たちが好いた男に、自分が火をつけたキセルを渡す」という習慣があったようで、色男の代表、歌舞伎十八番『助六』の主人公、花川戸の助六は次から次へとキセルを渡されそうになる。「キセルの雨が降るようだ」。この一言が、モテモテぶりを表している。

「歌舞伎では小道具一つで登場人物の身分や性格を表すことがある。その代表がキセルなんです」と大和田理事。「煙管一本。そのカゲにはさまざまな芸談が隠されている」。演劇評論家・渡辺保氏は著書『煙管の芸談』でこう書いている。

(事業局専門委員 田中聡)

※写真はいずれも国立劇場提供

小道具・大道具や衣裳も間近で体感! 「伝統芸能展」の日程などは公式サイトでご確認ください → https://tsumugu.yomiuri.co.jp/dentou2022/

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