「絶景かな、絶景かな」でおなじみ、石川五右衛門。東京・上野の東京国立博物館表慶館で3月13日まで開催されているユネスコ無形文化遺産特別展「体感!日本の伝統芸能-歌舞伎・文楽・能楽・組踊の世界―」の歌舞伎コーナーで目立つのは、何といっても、『
胴の部分がねじねじしている「手綱型」のこのキセル、「これだけ太いと、本物なら重いでしょうから、喫煙具としては実際に使えるかどうか」というのは、国立劇場を運営する日本芸術文化振興会の大和田文雄理事だ。「実用品というよりも、五右衛門の豪胆さ、強さの象徴なんですよ」
身分によってその持ち方も変わってくる。大名は銀延べの長いキセルを肘を張って持っているし、町人は筆を持つように人差し指と中指の間に羅宇(竹製のキセルの軸)をはさんでいる。火皿の下をつまむようにして持っているのは、お百姓さん――。どんなキセルをどんな風に持っているかで、その役どころがわかってくる。
演出上のアクセントにもなる。「御新造さんへ、おかみさんへ、いやさお富、久しぶりだなあ」で有名な『お富与三郎』。お富がポンとキセルで灰吹きを叩くのが、この名セリフのきっかけだ。『伊勢音頭』では仲居の万野が主人公の貢にプッと煙を吹きかける。いかにも意地悪な感じがしていいのである。
吉原では、「花魁たちが好いた男に、自分が火をつけたキセルを渡す」という習慣があったようで、色男の代表、歌舞伎十八番『助六』の主人公、花川戸の助六は次から次へとキセルを渡されそうになる。「キセルの雨が降るようだ」。この一言が、モテモテぶりを表している。
「歌舞伎では小道具一つで登場人物の身分や性格を表すことがある。その代表がキセルなんです」と大和田理事。「煙管一本。そのカゲにはさまざまな芸談が隠されている」。演劇評論家・渡辺保氏は著書『煙管の芸談』でこう書いている。
(事業局専門委員 田中聡)
※写真はいずれも国立劇場提供
小道具・大道具や衣裳も間近で体感! 「伝統芸能展」の日程などは公式サイトでご確認ください → https://tsumugu.yomiuri.co.jp/dentou2022/
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