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2025.8.15

【修理リポート】国宝「金峯山経塚出土紺紙金字経きんぷせんきょうづかしゅつどこんしきんじきょう」(奈良・金峯山寺蔵)― 道長経の欠失部分 補強法検討へ

立ち上がって紺紙金字経を見つめる五條良知管長(奈良国立博物館で)

2023年度から修理を続けている国宝「金峯山経塚出土紺紙金字経きんぷせんきょうづかしゅつどこんしきんじきょう」について、所蔵者の金峯山寺(奈良県吉野町)、文化庁、修理を担当する民間企業「文化財保存」(奈良市)の担当者らが〔2025年〕6月9日、寄託先である奈良国立博物館(同)の文化財保存修理所で今後の修理方針を協議した。

紺紙金字経は、平安時代に権勢をふるった藤原道長と曽孫師通がそれぞれ金峯山(現・山上ヶ岳)の山上に納めた自筆の経典。これまで同寺所蔵の考古資料「奈良県金峯山経塚出土品」(国宝)の一部として江戸時代に紺紙金字経9紙が出土したことが知られていたが、近年、新たに200紙近い経典が金峯山寺内で発見され、元は9紙と一体のものだったことが判明。これらは合わせて23年に重要文化財、24年に国宝に指定された。

道長は自ら記した日記「御堂関白記」(国宝)に、金峯山寺へ参詣して経典を山上に奉納した史実を書き残している。紺紙金字経は貴族の信仰を現代に伝える資料として価値が高い。

ただ、道長筆の経典は下側が欠失するなど経年劣化による損傷が著しく、公開が困難な状況。このため同寺は23年度からの3か年計画で修理に着手した。「紡ぐプロジェクト」も24年から修理への助成を始めた。

この日は「文化財保存」の担当者が道長経について、染色したこうぞ紙を亀裂などに貼って補強してきたことを報告。欠失の大きい部分や本紙から分離する恐れがある部分は文化庁調査官らと修理技師が個別に補強方法を話し合い慎重に進めることにした。

五條良知管長(61)は「紺紙金字経がこれ以上欠失しないよう修理に努めていただいたことはありがたい。道長の思いが込められた文字を未来に伝えるため、しっかりとした修理をお願いしたい」と語った。

(2025年8月3日付 読売新聞朝刊より)

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