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2025.5.10

【修理リポート】国宝「弥勒如来坐像ざぞう」(奈良・興福寺蔵)― お顔や背面 きれいに整う 漆箔層の剥落止めに重点

「紡ぐプロジェクト」の助成対象として修理を進めていた国宝4件、重要文化財4件が、2024年度の作業を終えて、所蔵元などに戻った。今月〔2025年5月〕と来月の2回にわたり、修理の詳細をリポートする。

修理で剥落止めが施された弥勒如来坐像の顔(奈良市の興福寺で)=近藤誠撮影
修理で剥落止めが施された弥勒如来坐像の顔(奈良市の興福寺で)=近藤誠撮影

興福寺(奈良市)の国宝「弥勒如来坐像ざぞう」が〔2025年〕3月27日、奈良国立博物館(同)文化財保存修理所から同寺北円堂に戻された。

北円堂の本尊・弥勒如来坐像は、両脇に立つ無著むじゃく菩薩立像、世親せしん菩薩立像(いずれも国宝)とともに鎌倉時代の仏師、運慶が一門を従えて制作した。鎌倉時代木彫像の頂点を示す運慶晩年の傑作として知られる。

像高約141センチ。カツラ材を用いた寄せ木造り。像の表面に漆を塗って、その上に金箔きんぱくを押した漆箔の像。八角形の裳懸座もかけざの上に座る。

修理の実施は、昨年6月から。1983年に本体の修理を行ってから約40年が経過し、漆箔層の浮き上がりが背面を中心に本体や光背の各所で確認された。このため今回の修理のほとんどが漆箔層の剥落はくらく止めに充てられた。

(美術院の)技師によって慎重に台座に安置された
修理が施された背中

この日は修理を担当した「美術院」(京都市下京区)の技師らにより台座、本体、光背の順に北円堂へ持ち運ばれ、入念な位置の調整を繰り返した後、以前と同じ姿で安置された。

北円堂で恒例の春と秋の特別公開は、今年は行われない。東京・上野公園の東京国立博物館で9月9日に開幕する特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」(興福寺、読売新聞社など主催)で、弥勒如来坐像や無著・世親菩薩立像を含む、ゆかりの国宝7体が出展される。

興福寺国宝館学芸員で境内管理室次長の多川文彦さん(47)(古美術史)は「今回は本体が約40年ぶり、台座と光背は約90年ぶりとなる修理だった。本体のお顔や背面など、傷んでいた部分がきれいに整って戻ってきたので安心した」と語った。

(2025年5月4日付 読売新聞朝刊より)

紡ぐプロジェクトとは  国宝や重要文化財、皇室ゆかりの名品、伝統文化、技術などを保存、継承していく官民連携の取り組み。文化庁、宮内庁、読売新聞社が2018年に開始した。展覧会の収益の一部や、企業からの協賛金などを活用し、文化財の修理を助成し永続的な「保存・修理・公開」のサイクル構築を目指す。これらの文化財の魅力や修理作業の経過に加えて、次世代に伝える伝統芸能、工芸の技術などを、紙面やサイトを通じて国内外へ情報発信している。

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