三味線や
地元の保存会が手で繭から紡いだ生糸などを使う。織物用の生糸は繭を乾燥させて取るのが中心だが、楽器用の生糸は水分を含んだ繭から取る。糸に「セリシン」というたんぱく質が残り、弾力があるためだ。太さにばらつきがあるが、橋本英宗社長(47)は「同じ太さの繊維を束ねれば音が硬くなる。太い糸や細い糸が交じっていれば音は豊かになる」という。
太さが一定でないから、1本により合わせる原糸の量は、本数でなく重さで決める。「目方合わせ」と呼ばれる工程で、糸巻き機を手で回し、はかりで重さを確かめる。
同社は国内で唯一、「
よった糸はウコンで黄色く染め、のりと煮込んでよった糸と糸を接着して固定し、柱に張って自然乾燥させる。
同社は、絹や化学繊維、太さも様々な、400種以上の糸を生産し、より具合を指定する一流演奏家の注文にも応える。橋本社長は「作り手が合理性を求めてしまえば、演奏家はどうにもできない。責任を持って、変えていいところと変えてはいけないところを区別しなければ」と話す。
三味線に糸を張り、鳴らしてもらった。ただ澄んだだけの音ではなく、雑味が陰影を生み心地良い。橋本社長の父で、国の選定保存技術保持者(邦楽器糸製作)である橋本圭祐会長(75)は、理想の音を「丈夫で、張りがあって、余韻があって、耳にさわりがいい音」と言い表す。ふぞろいの材料と、手仕事の丹精が、豊かな響きを守っている。 (文化部 清岡央)
(2022年6月5日付 読売新聞朝刊より)
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