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2022.10.5

【守り伝える 現場から】弘法大師由来 雨乞い踊り

振り袖姿の男の子たちの踊りが特徴の「綾子踊」(香川県まんのう町で)

青空のもと、黄色く色づき始めた稲穂が映える秋の集落では久々の行事に住民が沸き立っていた。香川県まんのう町佐文さぶみの伝統行事「あやおどり」は9月4日、コロナ禍による中止を乗り越え、4年ぶりの開催にこぎつけた。

2年に1度、地元の加茂神社境内で奉納される踊りは雨乞い祈願として現在に伝わり、国の重要無形民俗文化財にも指定されている。干ばつに見舞われた平安時代、住民が諸国を遍歴する僧に勧められて雨乞い踊りをしたところ、大雨が降った。僧は町名の由来となった香川の水がめ「満濃池まんのういけ」を修築した空海(弘法大師)のことだ。

弘法大師由来の行事として江戸時代の記録も残り、地元の佐文綾子踊保存会が伝承を続けている。勇ましい棒振と薙刀なぎなた振で境内を清めた後、あでやかな振り袖姿で踊るのは、地元の男の子ら。綾子(巫女みこ)を象徴した「小踊」「大踊」が小歌に合わせて踊る。その様子を見つめる大人たちの温かなまなざしに、行事が育む地域の絆を感じた。

加茂神社に続く道を歩く参加者ら。4年ぶりの「綾子踊」は青天に恵まれた(香川県まんのう町で)

芸能史的価値も高いとされる綾子踊は、戦後に担い手不足で一時期途絶えたものの、1968年の保存会発足で地元の子どもに指導する体制ができた。コロナ禍で2020年の秋は奉納を断念したが、今回「子どもたちに小踊、大踊の経験をさせたい」と感染対策も万全にして再開を果たした。

綾子踊は、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)無形文化遺産の登録を目指す日本各地の「風流踊ふりゅうおどり」の一つでもある。「未来に向けてしっかり継承していきたい」。行事終了後、保存会の白川正樹会長(71)は、力強く決意を語っていた。

(2022年10月2日付 読売新聞朝刊より)

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