2022.4.15

【守り伝える 現場から】名城の威風保つvol.1 丸亀城(香川県丸亀市)

豪雨などで崩れた石垣の復旧工事が進む丸亀城(香川県丸亀市)。積み直しに備えて回収した石が並べられている。石垣の上には天守の姿が見える

いにしえの職人の優れた技術と後世に守り伝えようとする人々の思いが重なり、文化財は唯一無二の魅力をまといます。「紡ぐプロジェクト」では、各地の文化財保護の取り組みを紹介する「守り伝える 現場から」をスタートします。初回は近世建築の粋が息づく名城を訪ね歩き、文化財を保存・活用する意味を見つめます。

権力の象徴である天守、高くそびえたつ石垣――。威風を備えた名城は、今も住民や観光客に愛される存在だ。一方で、城の歴史は長年の経年劣化や戦災、災害との戦いの歩みでもある。修復にたずさわる「たくみ」の姿から、地域のシンボルを守り伝える自負や誇りが伝わってくる。

豪雨、台風で石垣が崩落

「石の城」とも形容される丸亀城(香川県丸亀市)は、高さ60メートル超を誇る石垣で知られ、市の中心部に堅固な要塞ようさいを思わせる迫力ある姿でたたずむ。城内を歩けば「扇の勾配」と呼ばれる曲線が特徴的な石垣の美しさを間近に堪能できる。剛と柔――。石が持つ多様な魅力を体感できる城だ。

2018年、相次いで西日本を襲った豪雨や台風が美しい石垣に被害を及ぼした。

丸亀市の東信男・文化財保存活用課長は、7月の豪雨で帯曲輪おびぐるわ南面の高さ7メートルの石垣が幅30メートルにわたり崩れた時の衝撃が忘れられない。石同士が擦れ合う「ギリギリ」という不気味な音が響いた。10月の台風では、三の丸南西隅の高さ17メートルの石垣が南北30メートル、東西25メートルにわたり砂煙を上げて崩落。見る影もなくなった石垣の惨状に息をのんだ。

「ショックでした。強固な石垣が崩れる姿は想像もしていませんでしたから」

慶長2年(1597年)に生駒氏が築城以来、山崎氏、京極氏と城主を変えつつ、瀬戸内海を一望できる要衝として機能してきた国指定史跡の丸亀城。石垣の一つ一つが、地元の誇る貴重な文化財だ。市民から寄せられた「二度と崩れない石垣を」との願いを心に刻み、職人の経験と最新の技術の両面を生かした手法で、崩落前の姿に戻す復旧工事を進めている。

職人の経験と最新のIT技術で復旧へ
石垣の復旧を目指し、石の状態を綿密にチェックする石工

崩落した石材は、熟練の石工がハンマーでコツコツとたたき、ひび割れなどがないか入念にチェックする。音で肉眼では分からない異常を察知し、必要に応じて新しい石材と交換する。

6000個を超える石をパズルのように組み合わせるために、コンピューターの「マッチングシステム」を採用。顔認証技術を応用し、元の石垣の写真と比べて、どこに石を配置するかを特定する。

復旧作業中には思わぬ発見もあった。崩落した石垣内部に、江戸時代の古い石垣の一部を発見。過去に崩落した石垣を土で埋め、その上に現在の石垣を積み直した構造が判明した。

この「埋没石垣」は作業現場で一般に公開している。「丸亀城の歴史に触れてもらいながら、修復の意義を感じてもらえたら」と松江康司・市丸亀城管理室長は願う。市民の期待を背負った修復は、2024年度に完了予定だ。

(読売新聞文化部・多可政史)

(2022年4月3日付 読売新聞朝刊より)

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