文楽の舞台裏を支える職人たち。大阪・国立文楽劇場の仕事場を訪ねた。
大阪・国立文楽劇場 かしら担当 村尾愉さん(53)
顔色、顔料の配合で調整
文楽人形のかしらは、特殊なものを含めて約80種類。役柄に応じて色を塗り直し、様々な演目で使います。
顔色には白、卵、濃卵などがあって、白い顔料「胡粉」と、赤い顔料「紅殻」の配合量を変えて調整します。公演ごとに塗り替えますから、20年も使うと二回りもかしらが大きくなるんですよ。内側には目や眉、口を動かす仕掛けがあり、それらを操る糸の点検や修理も欠かせません。
新たにかしらを作るのも重要な仕事です。文楽座のかしらは1945年の大阪大空襲で9割が焼失し、今あるものの大半は、亡き師匠・大江巳之助さんの作品です。ヒノキをノミや彫刻刀で削って作ります。
常に心がけているのは我を出さないこと。かしらは人形遣いさんが構えて初めて魂が入るものですから。自分が30年間で学んだことを後輩たちに伝え、伝統を守りたいと思っています。
大阪・国立文楽劇場の床山担当 八木千江子さん(38)
髪形 立役80、女形40種類
文楽の床山は、鬘の製作と結髪を担当します。
まず銅板を切り、金づちでたたいて土台となる「台金」を作る。台金に穴を開け、人毛やシャグマ(ヤクの毛)を編んだ「蓑毛」を縫い付けます。前髪、鬢など部分ごとに分かれた鬘を組み合わせ、人形のかしらに鋲で留めます。
基本的な髪形は、立役で約80種類、女形で約40種類。役の身分や年齢、性格ごとに違います。鬢付け油は使わず、特注のつげぐしで整えながら結い上げます。一つの公演で50ほどの鬘を師匠と2人で受け持ちます。役柄によっては、舞台上でざんばらに髪をほどく「捌き」という演出があり、終演後に毎日結い直します。
伝統芸能の裏方に憧れ、この道に入って13年。捌きのように鬘は感情表現につながるものなので、お客さんの反応があるとうれしいです。一人前になるため、今後も精進していきたい。
(2021年12月8日読売新聞から)
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ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感!日本の伝統芸能-歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界-」 (yomiuri.co.jp)