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重要文化財の吉山明兆筆「五百羅漢図」は全50幅のうち、第16~30号幅(東福寺蔵)が4月16日まで展示されている。4月18日から会期末までは第31~45号幅(同)を展示(松浦一樹撮影)

2023.4.5

青い日記帳「応仁の乱の戦禍を免れた文化財や書画をまとめて見られる貴重な機会」

特別展「東福寺」(東京国立博物館)

「京都五山」と聞くと、夏の夜空に文字が浮かぶ「京都五山送り火」を真っ先に思い浮かべる方が多いかと思いますが、幕府により制定された、京都を代表する五つの有力な禅宗(臨済宗)寺院を指すことばです。中国南宋時代の五山官寺制度に倣い、格式の高い五つの寺院を「京都五山」として定めました。具体的には、天竜寺てんりゅうじ相国寺しょうこくじ建仁寺けんにんじ東福寺とうふくじ万寿寺まんじゅじの五寺院がそう称されています(南禅寺は別格)。鎌倉・室町幕府の手厚い保護を受けた「五山」には優れた人材(学僧)が集まる一方で、非常に優れた仏教美術や建築様式が花開き、その文化を今に伝える大事な存在となっています。例えば、建仁寺であれば、俵屋宗達たわらやそうたつの傑作、国宝「風神雷神図屏風」や、 海北友松かいほうゆうしょうが描いた迫力満点の重要文化財「雲龍図襖うんりゅうずふすま」が伝わります。相国寺は、伊藤若冲が国宝「動植綵絵どうしょくさいえ」を寄進したことでも有名です。

東福寺展は「 応仁の乱の戦禍を免れた貴重な文化財や書画、鎌倉時代に彫られた仏像などをまとめて見られる初めての貴重な機会」(中村剛士さん提供)

そのような格式高い「京都五山」の中に名を連ねる東福寺は、紅葉の名所として広く知られる存在であり、京都を代表する観光名所として国内外から多くの人が訪れています。境内の中央を流れる洗玉澗せんぎょくかんに架かる橋廊はしろう通天橋つうてんきょう」からの眺めは一生に一度は見ておきたい、それは、それは、美しいものです。京阪電車本線、JR奈良線の駅名(東福寺駅)にもなるほどその名を広く知られ、地域に根ざした東福寺ですが、意外なことに、その成り立ちや寺宝をまとめて紹介する展覧会はこれまで開かれていませんでした。応仁の乱の戦禍を免れた貴重な文化財や書画、鎌倉時代に彫られた仏像などをまとめて見られる初めての貴重な機会が特別展「東福寺」なのです。

中村さん「一推し」の虎関師錬筆「虎 一大字」(中村剛士さん提供)

東福寺展は国宝・重要文化財を前面に押し立てるのではなく、臨済宗東福寺派大本山慧日山えにちさん東福寺の創建(来歴)から、名だたる寺僧たちによる教えや禅宗文化(絵画や書画)、そして「東福寺の伽藍がらん面」と呼ばれた圧倒的なスケールを誇る建造物とそこに鎮座する仏像群が一つひとつ丁寧に紹介しています。東福寺についてより深く知ってほしいとの願いが込められたそんな展示構成・内容こそ、この展覧会の大きな特徴であり、最大の魅力となっています。貴重な寺宝はどうしても展示替えが必須となり、展示期間が合わず、お目当ての名品が鑑賞できないといった悲劇もよく起きますが、東福寺展については、その心配は無用です。ちなみに、個人的に一推しの作品である虎関師錬こかんしれん筆「とら 一大字いちだいじ」(鎌倉~南北朝時代、14世紀、京都・霊源院)は通期展示です。

特別展「東福寺」展示構成

第1章「東福寺の創建と円爾えんに
第2章「聖一派しょういちはの形成と展開」
第3章「伝説の絵仏師・明兆」
第4章「禅宗文化と海外交流」
第5章「巨大伽藍と仏教彫刻」

迫力ある仏像群も東福寺展の魅力(中村剛士さん提供)

室町時代の絵仏師・吉山明兆きっさんみんちょう(1352-1431年)が3年以上もの長い時間をかけ描き上げた重要文化財「五百羅漢図」の大修復が、2008年から実に14年もかけて行われました。初の東福寺展では、色鮮やかによみがえった500人の釈迦の弟子を描いた「五百羅漢図」のお披露目のハレの舞台として展示替えを行いながら公開されています。漫画のようなコマワリで、それぞれどんな場面が描かれているかを一目で分かるような解説パネルを併設するなど、仏教美術に馴染なじみのない方にも興味深く鑑賞してもらえる工夫が凝らされています。

中村剛士

プロフィール

ライター、ブロガー

中村剛士

15年以上にわたりブログ「青い日記帳」にてアートを身近に感じてもらえるよう毎日様々な観点から情報を発信し続けている。ウェブや紙面でのコラムや講演会なども行っている。著書に『いちばんやさしい美術鑑賞』『失われたアートの謎を解く』(以上、筑摩書房)、『カフェのある美術館』(世界文化社)、『美術展の手帖』(小学館)、『フェルメール会議』(双葉社)など。 http://bluediary2.jugem.jp/

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