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2026.5.21

【技を継ぐ あをによし賞20年】(2)茅葺かやぶ棟梁とうりょう -亡父の茅葺き 工夫重ねる

依水園の水車小屋の茅葺き屋根を葺き替える隅田茂さん(4月14日、奈良市で)=河村道浩撮影

〔2026年〕4月中旬、奈良市の国名勝・依水園で茅葺かやぶ棟梁とうりょうの隅田茂さん(66)が、水車小屋の屋根を葺き替えていた。高く組まれた足場を移動しながら、ススキなどの茅の束を手際よく並べ、整えていく。

隅田さんの父の隆蔵さん=写真=は2008年、第2回読売あをによし賞「本賞」を受賞した。伊勢神宮の式年遷宮で社殿の茅葺きを2度手がけ、この分野で唯一の選定保存技術保持者だった。90歳を過ぎても屋根に上り、「屋根の上で死ねたら本望」が口癖だった。24年、98歳で天寿を全うした。

隅田隆蔵さん

隅田さんは高校時代から、父の仕事を手伝い、20歳頃に本格的に弟子入りした。当初は後継者になるつもりはなかったが、一緒に仕事をするうちに「自然と継ぐ流れになった」という。

父は職人気質で手取り足取り教えてはくれなかった。一つ一つ見ながら覚え、入母屋いりもや切妻きりづま寄棟よせむねの屋根の葺き替えを独力でできるようになるまで10年かかった。父から「これからは一人でやっていける。責任をもって屋根を葺け」と声をかけられた時を思い出し、「褒められたのは、この一度きり」と懐かしむ。

山深い奈良県宇陀市の自宅を拠点に、工事のため全国を飛び回る。屋根1坪にかかる茅の重さは300キロほど。重さで下層が圧縮されるのを計算し、茅の密度をそろえる。束の縛り加減に職人の技が問われる。

約30年ごとに葺き替えられる屋根は、囲炉裏いろりで薪を燃やして出た煙が屋根の防虫や防腐、殺菌効果をもたらす。断熱性や通気性、吸音性などに優れ、屋根から下ろした後は風呂たきや肥料に使われた。茅葺き屋根は日本の農山村の原風景だったが、生活スタイルの変化で急激に減った。

職人も生産者も減り、仕入れ先だったススキの名所・曽爾そに高原(奈良県曽爾村)では2010年頃以降、刈り取り自体がなくなった。茅場の開拓に迫られ、頭を抱えたが、顧客や職人仲間から情報を集め、青森県や熊本県の生産者とつながり、良質な材料を確保。耐久性に優れるよしを屋根表面に多く使用するなど工夫を重ねている。

現在手がける仕事の多くは指定文化財や博物館施設が中心だ。現場では、各地の若手職人と一緒に作業することも多い。「互いに共感できる部分が必ずある。全国の山から良い素材を探して巡り合い、完成を所有者の方に喜んでもらえることが大きな喜び」と語る。(辰巳隆博)

動画はこちら

◆「第20回」候補者募集
読売新聞社は「第20回読売あをによし賞」の候補者の応募を受け付けている。文化財の保存、修復の最前線を支える活動「保存・修復」の部と、伝統文化を継承し、発展させる取り組み「継承・発展」の部で選考する。賞金は各200万円。6月19日締め切り(必着)。問い合わせは事務局(06・6366・1857=平日午前10時~午後5時)。結果発表は秋頃を予定している。

(2026年5月5日付 読売新聞朝刊より)

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