御即位記念の特別展「皇室の名宝」が、京都国立博物館(京都市東山区)で開かれている。皇室が守り伝えてきた、伊藤若冲「
特別展にちなみ、宮内庁三の丸尚蔵館首席研究官の太田彩さんが10月10日の記念講演で、宮廷で育まれた文化を後世に継承する取り組みについて解説した。
和歌を詠み、管弦を奏で、書を学ぶ。まとうのは、繊細な織や繍による装束――。私たちがイメージするこうした宮廷文化は、平安時代に生まれた。「大陸からもたらされた技術や文物などを、日本の風土に合わせ、特有の感性によって発展させるなか、宮中で成熟していきました」
そこから、例えば勅撰和歌集のように、天皇自らが豊かな才能を発揮したり、時代ごとの優れた「アーティスト」に制作を依頼したり、献上・贈答されて集められたりと、皇室は様々な形で日本文化・美術の発展に寄与してきた。「明治期には、今の無形文化財保持者、いわゆる人間国宝につながる『帝室技芸員』の制度を設け、技の伝承にも取り組んでいます」
平成元年(1989年)、上皇陛下と香淳皇后によって美術工芸品が国に寄贈され、それを保存管理、調査研究、展示を行う施設として、宮内庁三の丸尚蔵館は平成5年(1993年)に設立された。
「三の丸尚蔵館で管理している作品の数々は教科書にも登場するような優品を含め、古代から現代まで、また日本のみならず世界各国の品々と、実に様々なものがあります。これは、皇室に伝わった作品が、特定のコレクション収集によるものではなく、制作依頼、外部からの献上など、様々な経緯によって集積されたものであることによります。皇室に伝えられてきたこれらの品々を、私たちは多くの方々に見て戴く機会を増やすためにも、保存事業を大切にして進めています」
例えば、700年以上も守り残されてきた「春日権現験記絵」は、経年劣化が著しく公開することが難しい作品だったが、どのような修理を行うかの検討を始めてから修理事業を進め、その公開が叶うまで足かけ20年にわたる修理事業となったという。
この修理では、鎌倉時代の表紙
修理は、作品がどのような構造、制作技法で作られたのかが確認でき、作品の状態を良く知る貴重な機会でもある。平成11年(1999年)から行われた伊藤若冲「動植綵絵」30幅の修理では、絹の裏側にも彩色を施す「
「裏彩色を行うことで、表側の色と重なって色彩が重厚になる、また裏彩色の色が絵絹を通して表側の彩色と相互に影響し合って微妙な色彩感や絵の奥行きを生む効果もあります。『視覚的マジック』ですね。若冲は主題となる描写を中心に、画面の隅から隅まで、葉っぱの一枚一枚まで、神経を行届かせて精緻に、丁寧に描いています。描くもの総てが平等に命を与えられて輝いている。その想いが巧みな描写表現を生み、色彩豊かな作品を創り上げています。ほかの絵師と違う素晴らしさだと言えるでしょう」
「平安期に育まれた宮廷文化は、繊細で穏やかで、大陸のものとは一線を画しています。我が国の素材を用い、器用さを生かして高度な技術を生み出し、以降、永く発展・継承されてきた雅な文化です。そして文化が継承されてきた歴史にも、日本人の細やかな精神や技が宿っています。その心もまた、日本文化の雅さです。そうした誇るべき文化によって生み出された品々を多くの方々に見て戴く機会をできる限り増やしていくことも私たちの大きな務めです。それは同時に、長い
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