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2022.7.21

【色褪せぬ「動植綵絵」】vol.2―若冲の技巧と豊かな活力

明治宮殿「西溜の間」 英国皇太子(のちのエドワード8世)来日の際、動植綵絵2幅を飾った(1922年4月撮影)=宮内庁宮内公文書館蔵「明治宮殿」写真帳より
写経の感覚 生物の仏性描く

動植綵絵どうしょくさいえ」は在家の禅修行者でもあった伊藤若冲じゃくちゅうが10年ほどかけて描いた30幅に及ぶ花鳥図の大作。徹底的な観察に基づく動植物の実在感と意匠性で、若冲の画業の中核に位置づけられる。

本来、釈迦三尊の周囲を美しく厳かに飾るための仏画で、様々な動植物は釈迦を敬いその教えを聞きに集まったとされる。若冲が「釈迦三尊像」とともに京都・相国寺に寄進したが、明治時代初めの廃仏毀釈で窮乏した同寺から1889年に明治天皇に献上された。現在は三の丸尚蔵館が収蔵している。

皇室でも大切に保管され、1919年の修理では表具の天地が通常よりも長めに仕立てられた。外国からの賓客の接遇などの折に明治宮殿(1945年に焼失)にかけられた記録が残っている。

1999年度から2004年度にかけて行われた平成の修理の際には、平安時代や鎌倉時代の絹本けんぽんの彩色画に見られる裏彩色の技法が用いられていることなどが分かり、話題となった。

展示される10幅のうち「紫陽花あじさい双鶏図そうけいず」は、つがいの鶏を覆うように、画面上部に青と白のアジサイが描かれている。白いアジサイは胡粉ごふんで裏彩色が施されている。一枚一枚のがく片の濃淡を微妙に描き分けるなど、精緻な表現が際立つ。

「伊藤若冲像」久保田米僊筆 京都・相国寺蔵

技巧が注目されがちな若冲だが、宮内庁の朝賀浩参事官は一切の手抜きなしに描き込んだ豊かな活力の源泉にも目を向けてほしいと話す。「仏教には自然界のすべてに仏性が宿るという考え方がある。若冲は写経に近い感覚で、生きとし生けるものを丁寧に描いたのではないか。そうでなければ、このエネルギーを理解するのは難しい」

(2022年7月3日付 読売新聞朝刊より)

特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」 「動植綵絵」は8月30日からご覧いただけます

https://tsumugu.yomiuri.co.jp/tamatebako2022/

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