江戸時代、京都で活躍した絵師・伊藤
若冲 (1716~1800年)による「動植綵絵 」は、京都・相国寺 から明治天皇に献上され、皇室で守り継がれてきた。昨年、宮内庁三の丸尚蔵館収蔵品から初めて国宝に指定された5件のうちの一つで、 いずれも縦約140センチ、横約80センチの大作だ。8月に開幕する特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」では、全30幅の連作のうち10幅をまとめて展示する。その魅力を、小説『若冲』の作者である作家・澤田瞳子さんに寄稿してもらった。
伊藤若冲を主人公とする小説を
そもそも私が若冲を小説にしようとしたのは、生涯の大半を京都で過ごした彼を通じ、近世京都を描こうと考えたためだった。そんな彼は現在では京都はおろか、日本を代表する絵師の一人として大人気なのだから、「
私が初めて「動植綵絵」に接したのは、どうやら小学生の頃だったらしい。――らしい、と記す理由は、現在の私にはその記憶がないためだ。ただ私の手元には現在、小学校5年生の頃に描いた「私と好きなもの」という自画像が残っており、そこには動植綵絵の1幅、「
そんな私が動植綵絵を目の当たりにしたのは2007年、明治期に皇室に献上された同作が、初めて京都・相国寺に里帰りした折。正面に釈迦三尊像が、その左右に動植綵絵30幅が対となって飾られた展示は息をのむほど濃密かつ晴れやかで、これほどの作品が一室に飾られる
動植綵絵は1幅ずつが気の遠くなるほど細密な筆と、大胆な構図によって成り立っており、微視的に見てよし巨視的に見てよしという見どころたっぷりの困った作品だ。
更に、絵の片隅にまで若冲の入念な筆が行き届いているせいで、たとえば「
ちなみに私はかねて「
幾度前にしても色
さわだ・とうこ 1977年、京都市生まれ。同志社大学文学部で奈良仏教史を専門に研究し、学芸員資格を持つ。2010年に「孤鷹の天」で作家デビュー。古代や江戸時代を中心に歴史・時代小説を手がけ、「若冲」で親鸞賞を受賞した。21年には「星落ちて、なお」で第165回直木賞受賞。近著は飛鳥の女流歌人・額田王を描いた「恋ふらむ鳥は」(7月4日刊行)など。
◆小説『若冲』◆ 綿密な史料の調査分析と魅力的なストーリー設定で、人気絵師・伊藤若冲の半生を鮮やかにつづった。京都の青物問屋の主人、若冲は、妻を亡くしてからひたすら絵に打ち込み、家督を早々に弟に譲る。同時代の画家・池大雅や与謝蕪村、円山応挙らとの交流、当時の時代背景などから「何を考えながら絵を描いたのか」をひも解く。
数々の絵の描写も細やかで、若冲の作品が目の前に広がるかのよう。若冲をテーマに小説を書こうとした際、歴史小説家の葉室麟さんと企画が重なったが、「それなら若い人に」と譲られ、執筆がかなったという。2015年刊行。直木賞候補作。
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