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2024.5.9

【皇室の美】大正の大礼 精巧な下賜品

皇居三の丸尚蔵館名品選「美が結ぶ 皇室と香川」

皇居三の丸尚蔵館の収蔵品を各地で紹介する展覧会がスタートした。今年度〔2024年度〕は、現在開催中の香川県立ミュージアムをはじめ、北海道、岐阜県、新潟県で開催する予定だ。

2019年(令和元年)に行われた令和の大礼(即位の儀式)は記憶に新しい。伝統的な装束に身を包んだ天皇皇后両陛下の姿、夜に厳かに行われた大嘗祭だいじょうさい(天皇が初めて行う新嘗祭にいなめさい)、華やかな饗宴きょうえんの様子などが報道された。

天皇の即位による諸儀式のあり方は時代によって変化している。明治になり近代国家として歩み始めた日本は、1909年(明治42年)に即位に関する法令「登極令」を新しく定め、それに従った初めての大礼が1915年(大正4年)に執り行われた。

大正の大礼は、11月10日に即位礼、15日に大嘗祭を終え、16~17日の2日間をかけて、京都・二条城で「大饗だいきょうの儀」と呼ばれる饗宴を行った。

大饗第1日は明治の大嘗祭後の宴席にならい、「古式の献立」が振る舞われ、その陪席者には桜とたちばなかたどられた銀製の造花「挿華かざし」が配られた。

挿華(桜・橘) 1915年(大正4年)

挿華は挿頭とも書き、古くは儀式や祭りの際に冠に挿した季節の花を意味した。後に大嘗祭の際に臣下から天皇に奉られる造花へと姿を変え、大正の大饗の儀では、天皇の御膳の前を飾る銀の造花、また陪席者への下賜品となった。

大饗第2日は「洋式晩餐ばんさん」という新しい形式によって催され、晩餐では入目籠形いりめかごがた、続く夜宴では柏葉箱形かしわばはこがたの「ボンボニエール」が陪席者に下賜された。

入目籠形ボンボニエール 1915年(大正4年)
  柏葉箱形ボンボニエール  1915年(大正4年)

ボンボニエールとは小さな砂糖菓子などを入れた蓋付きの小箱のこと。即位や結婚、長寿などの節目に、お祝いの場に同席した者に贈る、明治20年代から始まった新しい慣習である。大礼におけるボンボニエールの下賜は、この時が初めてとなった。

大饗の儀で配られた二つのボンボニエールは、どちらも大嘗祭で使用された祭具を銀で形作っている。6センチ程度の手のひらに収まるサイズだが、入目籠形は本当に編まれているかのような網目の立体感があり、柏葉箱形は大ぶりの葉を細い竹ひごで留める細部まで精巧に表現されている。

明治維新後、西欧諸国と並ぶため、皇室は国民の先頭に立って生活や文化などの西洋化を進めた。大正の大礼に配られたこれら記念の品には、古式の伝統を受け継ぎつつも、時代の変化を受け入れた皇室の新しい一歩が示されている。

(皇居三の丸尚蔵館 研究員 木村真美)

皇居三の丸尚蔵館名品選「美が結ぶ 皇室と香川」

【会期】〔2024年〕5月26日まで 月曜、5月7日休館。6日は開館。
会期中一部作品は場面替えあり。
【会場】香川県立ミュージアム(高松市玉藻町)
【観覧料】1400円 高校生以下、65歳以上無料
【問い合わせ】087・822・0002

(2024年5月5日付 読売新聞朝刊より)

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