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2024.3.5

【皇室の美】国宝「更級日記」― 読みやすい定家の書風

開館記念展「皇室のみやび―受け継ぐ美―」第3期「近世の御所を飾った品々」

国宝「更級日記」 藤原定家筆 13世紀(鎌倉時代)
皇居三の丸尚蔵館収蔵 通期展示(上の場面は4月9日~5月12日展示)

「小倉百人一首」で知られる藤原定家ふじわらのさだいえ(1162~1241年)は、平安時代末期から鎌倉時代前期にかけて朝廷で活躍した貴族である。父の俊成としなりとともに尊崇を受けた歌人として著名で、その出自は、藤原道長の六男長家ながいえを祖とする御子左流藤原氏みこひだりりゅうふじわらしという中流貴族。自身も50歳を過ぎてようやく公卿になるなど政治的には不遇だった。そのため官位昇進に執着したことが、自身の日記「明月記めいげつき」や、自らを推薦した「藤原定家自筆申文じひつもうしぶみ」(重要文化財、東京国立博物館蔵)などにうかがえる。「歌聖」の立場と、ひたすら昇進を求める廷臣という、両面を持つ人物だったといえるだろう。

今回紹介する「更級日記」は、高校の古文の教科書でも取り上げられる平安時代を代表する女流文学を、定家が自筆で写した古写本の一つ。後世に流布した諸本の基となった祖本そほんと評価される。

末尾に由来などを書き付けた「奥書」には、自身が所持する本を他者に貸したところ紛失されたため、貸した先で写された本をもとに、自身が再度書き写したとある。しかし、もとの本には不正確な記載が多かったため、定家が写した際に校訂しており、その痕跡として不審箇所についての朱点や、傍証の典拠を示す「勘物かんもつ」と呼ばれる注をいくつかの箇所で確認することができる。

字は壮年期以降に顕著となる独特の書風である。自身が多くの典籍を書写するなかで、後世の人が書写する際に誤りを防ぐため、読みやすさを優先して選んだ筆致と考えられている。奥書の記載と合わせ、後世に内容を正しく伝えようとする姿勢が見て取れ、定家の古典籍書写に対する意識の高さが伝わってくる。

歌人定家の名声が死後さらに高まると、その書自体も評価が集まり、貴重性が増していった。本作は、後水尾ごみずのお天皇愛玩の品でも知られ、後西ごさい天皇の崩御の際の御遺物ごゆいもつの一つでもあった。江戸時代には天皇の御手許品おてもとひんとして禁裏御所きんりごしょに伝わったと推測される。

(皇居三の丸尚蔵館調査・保存課長 高梨真行)

開館記念展「皇室のみやび―受け継ぐ美―
第3期「近世の御所を飾った品々」

【会期】〔2024年〕3月12日(火)~5月12日(日)
 ※月曜休館。4月29日、5月6日は開館し、翌火曜休館。
 会期中一部展示替えあり。

【会場】皇居三の丸尚蔵館(皇居東御苑内)

【問い合わせ】050・5541・8600(ハローダイヤル)

展覧会について詳しくはこちら→
https://shozokan.nich.go.jp/exhibitions/miyabi.html

(2024年3月3日付 読売新聞朝刊より)

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