我が国の工芸が最も発展した時代の一つに「安土桃山時代」がある。陶芸、染織、漆芸などの工芸技術の進歩や美意識の向上があり、世界に誇れる文化や作品を創ったことである。中国・朝鮮から再び流れ込んで来て、新しく南蛮文化も入って、異文化との交流の激しい時代であった。陶芸は端正なものであったが、使えるもので、意識を持ってデフォルメしたものを初めて作ったことである。しかも釉下にはじめて鉄絵を画いたことだ。少し遡るが、世阿弥が「花鏡」で説いた離見の見(応無所住而生其心)、芭蕉の「笈の小文」に記されている造化(自然)に従い、造化にかえれ(不易流行)などの教えは、陶芸ではあるけれども伝統を考える折にいい参考になる。ネオ桃山を考える時に教えられることは大きい。
鈴木 藏(1934- )Suzuki Osamu
岐阜県生まれ。荒川豊蔵や加藤土師萌に師事して志野や織部等の桃山陶の研究を深めた。伝統工芸を主体に活動し、日本伝統工芸展で1961年及び1967年優秀賞と受賞を重ね、現代感覚に富む革新性を高く評価された。1962年プラハ国際陶芸展グランプリ、1967年度日本陶磁協会賞(1981年度同金賞)、1987年芸術選奨文部大臣賞受賞。1994年重要無形文化財「志野」保持者認定。志野の技法と伝統を踏まえつつ、独自の大胆かつ重厚な造形表現を獲得した。岐阜県多治見市在住。
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