夜、部屋の灯りを消すとカーテンの隙間から白い光がもれているのに気づいた。窓の外を見ると満月で輝く月の光が明るくあたりを照らしていた。李白の静夜思の詩を思い出す。思えば子供の頃、空に浮かぶ月が私が歩くと同じ速さで自分についてきた。その経験から月は自分を見守ってくれる存在だと感じるのだろうか。そして月が自分を優しく見守ってくれる両親や故郷に重なる気がするのだろうか。李白の詩からもそれに似た感覚をおぼえる。千年の時や国を越え、変わらず輝く同じ月を見て感じる想いは今も昔も変わらないのだと改めて思った夜だった。その思いを作品に込めた。彩色した桐木地の箱に金箔、プラチナ箔で截金を施している。
江里朋子(1972- ) Eri Tomoko
京都府生まれ。1991年京都芸術短期大学日本画専攻卒業後、母・江里佐代子のもとで截金を修業した。伝統工芸を主体に活動し、2011年日本伝統工芸展に初出品し日本工芸会新人賞を受賞、西部伝統工芸展や伝統工芸諸工芸展でも受賞を重ねた。木地や白・黒に彩色した箱等に金やプラチナの細線と箔の幾何的な小片を貼りつけ、宝相華等の截金文様を巧みに表現して優美な装飾とし、現代的な感性を発揮した清新な創作を行っている。《截金飾筥 静夜思》は、桐の被せ蓋の方形箱で、木地と白と黒で彩色した地に金とプラチナの截金装飾を施している。李白の詩「静夜思」に想を得て、月が万象を優しく照らすイメージとした。福岡県福岡市在住。
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