日本の変化に富んだ自然の中でも、秋は特に色彩の豊かな実りの季節である。胎は乾漆技法により胴張り甲盛の膨らみを持った造形を行い、その上に柏の実と葉を全面に配し秋陽の光輝く情景を表現した。柏の葉は金鑢粉に金平目粉を蒔き分け、鉛の厚板による平文技法を加え、全体は研出蒔絵で仕上げている。葉脈は細かな金平目粉を用いた付描、鉛平文の葉は素彫で葉脈を表している。柏の実の夜光厚貝螺鈿を象嵌しアクセントとしている。器物全体を文様で覆いながら、奥行きや立体感を感じられる様、微妙に暈蒔きを取り入れている。
室瀬 和美(1950- ) Murose Kazumi
東京都生まれ。1976年東京藝術大学大学院美術研究科漆芸専攻を修了し、田口善国に師事した。父・室瀬春二や松田権六らの指導も受け、蒔絵を中心に伝統の漆芸技法を幅広く修得した。伝統工芸を主体に活動し、日本伝統工芸展で1985年及び2002年奨励賞、2000年優秀賞と受賞を重ねた。国宝重文等の修復を国内外で手掛けるなどの古典研究を基礎として、伝統を高度に継承した蒔絵や螺鈿、近年の鉛板の象嵌などの創意を駆使して、色彩と格調に富む華麗な表現を現している。2008年重要無形文化財「蒔絵」保持者認定。東京都新宿区在住。
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