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2019.8.13

【文楽 嬢景清八嶋日記】勇猛な武士の心を動かした娘の愛

嬢景清八嶋日記「日向嶋の段」より

東京・国立劇場の9月文楽公演(9月7~23日)は、第二部(16時開演)に、「嬢景清むすめかげきよ八嶋日記やしまにっき」を上演する。鎌倉時代を舞台に、勇猛な平家の武将だった景清の武士としての誇りと、娘との親子愛が描かれる。舞台を制作する国立劇場伝統芸能課の吉矢正之さんは、「今の時代にも通じる心情が随所にちりばめられています」と魅力を語る。

あらすじ

悪七兵衛あくしちびょうえ」の異名でも知られる景清は、平家を滅ぼした源氏に復讐ふくしゅうするため、源頼朝の暗殺を企て捕えられる。景清は「源氏の世を目にしたくない」と、自ら両眼をえぐり取り、流された日向国ひゅうがのくに(現在の宮崎県)で世捨て人として生活する。父を案じた娘の糸滝は、女郎屋に身を売り、その金を携えて日向国を訪れ、父との再会を果たす。

現代人も共感できる情愛
「花菱屋の段」より

悪七兵衛景清は、様々なお芝居にも登場する勇士の代名詞。「悪」とは、強いという意味がある。娘の糸滝は2歳で父親と生き別れるが、父が盲目となって日向で暮らすことが忍びなく、金があれば父が都で安泰に暮らせると知り、自ら女郎屋「花菱屋」に駆け込む。この「花菱屋はなびしやの段」では、糸滝の父への思いが語られる。

続く「日向嶋ひゅうがじまの段」で、親子はいよいよ再会する。

「景清は、死罪を免じた頼朝への恩義を感じながらも、源氏の世を良しとせず、自ら目をくり抜いて生きるすさまじい人物。舞台は厳粛ながら異様な雰囲気で幕を開けます」と吉矢さんが説明する。景清の人形のかしらは、この演目のみに使用しており、特殊な仕掛けがあるという。

誇り高き景清は当初、「景清は死んだ」とウソをついて娘を拒むが、抱きつかれると思わず引き寄せ、見えない目で娘の顔を見ようとする。糸滝に連れ添って来た女郎屋の男が、身売りの事実を隠し、「金持ちの農民に嫁いだ」とウソをついて金を渡そうとしたところ、景清は「武士の娘として汚らわしい」と怒り、二人を追い返してしまう。去りゆく船に「夫婦仲良く長生きせよ」と親の顔で叫ぶ景清。その直後、娘が渡そうとしたお金をどう工面したかを知る――。

「糸滝は、武士としての矜持きょうじから自分を追い返した景清の心情を理解しています。そんな勇士の景清も、身売りしてまで自分にお金を渡そうとした、娘の親を思う心に触れて慟哭どうこくし、運命のはかなさを嘆き悲しむのです。何があっても節を曲げない勇猛な人物が、親子の情にほだされ、過去と決別し、一歩を踏み出す。現代の方にも共感いただけると思います」

11月は歌舞伎に 文楽との違いに注目

この作品は、能の「景清」を下敷きにしており、人形遣いの足元を隠す「手摺てすり」が、能舞台をイメージした青竹の形になっている。初役で日向嶋を語る竹本千歳太夫さんは、文楽では珍しい白木の見台けんだい(台本である床本を置く台)を使うといい、格調高い、厳粛な雰囲気に包まれそうだ。

また、11月の国立劇場では、同じ悪七兵衛景清の物語を中村吉右衛門さんが演じる歌舞伎公演「孤高勇士嬢景清ここうのゆうしむすめかげきよ」(11月2~25日)が上演される。吉矢さんは「文楽と歌舞伎の違いを楽しんでみては」と話していた。

(読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来)

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