日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2024.2.6

【国立劇場だより】 新たに文楽用舞台 様々な工夫

国立劇場を離れての公演は舞台の設営から始まる

2023年12月、東京都足立区にある劇場「シアター1010(せんじゅ)」で、文楽を上演した。国立劇場以外で文楽を上演するのは、閉場後初めて。あす〔2024年2月〕5日からは、日本青年館ホール(東京都新宿区)での公演が始まる。

国立劇場小劇場は、文楽に必要な舞台機構をすべて備えていたため、新たに文楽用の舞台を創り上げるのに様々な工夫が必要になる。

代表的なものでは「ゆか」と「船底ふなぞこ」だ。

床は、舞台に向かって右側の前方から客席まで張り出した場所で、太夫と三味線が義太夫節を演奏する。円い形の盆を、直径のライン上に衝立ついたてを立てて仕切り、出番になると太夫の合図で盆がくるりと回り、座ったままの2人が登場する。「盆回し」と呼ばれる仕掛けだ。

盆の代わりとして、地方の巡業などで使用している御簾みすを巻き上げる方式も検討したが、床は、客席内にり出し臨場感を演出するだけでなく盆によってスムーズに演奏者が交代し、舞台上の進行を妨げず緊張感を継続することができる。それだけ重要な機構なのだ。「場所は異なっても、国立劇場主催の公演として本格的な文楽を届けたい」という思いは強く、盆を設置することにした。

もう一つの舞台機構「船底」は、人形遣いが人形を遣う、舞台の一段低くなっている部分だ。国立劇場小劇場は、もともと船底が掘りこんであり、普段は木の台で埋めていた。文楽公演のときには、台を取り外すだけで船底が完成したが、今回は逆に、通常の舞台面を船底にして、周りに平らな木の台を敷きつめて高くすることで船底を作った。見る人の目線に人形の高さを合わせ、見やすくするための調整も重ねた。

舞台の構成要素には全て役割があり、複数の要素が融合して舞台は完成する。これからも長年国立劇場で培った経験と知識による工夫を凝らし、新たな舞台を創り上げていく。(国立劇場制作部)

設備の老朽化にともなう建て替えのため、2023年10月でいったん閉場した国立劇場(東京・半蔵門)。その後も、伝統芸能の技を守り継ぐための取り組みを続けています。新たな工夫や挑戦などについて、随時お届けします。

(2024年2月4日付 読売新聞朝刊より)

Share

0%

関連記事