新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開幕が延期されている東京国立博物館の特別展「体感! 日本の伝統芸能」。ユネスコ無形文化遺産に登録された歌舞伎、文楽、能楽、雅楽、組踊の五つの芸能の舞台などが再現され、まさに伝統芸能の世界を「体感」できる画期的な展覧会だ。見どころも盛りだくさんで、来場を楽しみにされている方も多いだろう。準備が進む会場の様子を、一足早く動画とともにご案内する。
宮廷建築家の片山東熊が手がけた、美しいドーム屋根をいただく表慶館。その入り口を一歩入り、まず最初に目に飛び込んでくるのは、同博物館が所蔵する国宝「花下遊楽図屏風」の高精細複製品。プロジェクションマッピングで、花びらが屏風の中や足元を舞っており、何とも幻想的な雰囲気だ。
1923年の関東大震災で失われた右隻(向かって右側)の中央部分を、現存するガラス乾板の画像を元に復元されている。歌舞伎の元となった「かぶき踊り」の様子や、サクラの下で三味線を弾き、手拍子を打って遊ぶ人々の姿が描かれており、春を謳歌し、芸能を楽しむ様子がうかがえる。
「第1章 歌舞伎」の展示室に再現された「義経千本桜 道行初音旅」の舞台は、背景や天井からの「吊り枝」に、奈良・吉野の桜満開の風景が広がる。効果音や音楽を奏でる舞台下手の「黒御簾」と呼ばれるスペースの中にも、入ってみることができる。
映像コーナーでは、日本最古の映画で、フィルムが重要文化財に指定されている「紅葉狩」(1899年撮影、国立映画アーカイブ蔵)が上映されている。近代の歌舞伎を支えた明治の名優、九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎の出演で、子役として幼い六代目菊五郎も出ている。
歌舞伎独特の化粧法である「隈取」を来場者が楽しめるコーナーもある。モニターに映し出された自分の顔の上に、化粧が施され、歌舞伎役者の扮装を疑似体験できるもので、墨や紅を入れる手順は、実際に歌舞伎役者が行う様子を取材して再現したという。
2階に上がって最初の部屋が「第2章 文楽」の展示室だ。ここは、以前公開した準備作業の記事「【伝統芸能展の舞台裏】ノコギリを持った桐竹勘十郎さんが立っていた 技芸員が作る文楽展示」(リンク)にもある通り、人形遣いを中心に技芸員自らが展示物のいくつかを手作りしている。
再現された「本朝廿四孝 奥庭狐火の段」の舞台は自由に歩き回れる。スペースの壁には舞台の様子が投影されており、文楽の世界を堪能できる。
続いての「第3章 能楽」では、まずは豪華な能装束に目を奪われる。金糸・銀糸を使った唐織の華やかさを、間近でじっくり味わうことができる。「般若」や「三光尉」などの能面、「乙」などの狂言面が並び、能と狂言の世界を両方知ることができる。
能の「井筒」の舞台が再現されるが、開幕の直前に着付けを行う予定とのことで、この日はまだ準備中だった。能舞台の周りには、「井筒」の映像が流れており、謡や囃子が流れる中で能の世界にどっぷりとつかることができる。
沖縄の伝統芸能である組踊は、歌や舞を織り込んだ音楽劇。階段を降り、1階に戻った先にある「第4章 組踊」は、首里城の写真パネルを背景に、沖縄特有の模様染め「紅型」で染められたカラフルな組踊の衣裳、舞台、三線、小道具が展示されている。まるで沖縄に訪れたかのようだ。
舞台の上では羽衣伝説をもとにした演目「銘苅子」、展示スペースでは兄弟が父親の敵討ちをする「二童敵討」の一場面が再現されている。いずれも能や歌舞伎などでも似たような作品があるが、衣裳や小道具の違いが興味深い。
最後の第5章は、雅楽。にぎやかな演奏とともに、西国の人が蛇を求めて喜ぶ姿を舞にしたという「還城楽」が再現される。その後方には高さ5メートルの巨大な鼉太鼓(国立劇場蔵)が置かれており、圧巻だ。
展示されている装束は、宮内庁式部職楽部で実際に使用されているもので、映像コーナーでは、実際の雅楽の公演の様子を見ることができる。個性的な舞楽面の写真を眺めるのも楽しい。
(読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来)
0%