2026.6.18
特別展「文化財よ、永遠に2026 ―次代につなぐ技とひと」泉屋博古館(京都)

“文化財”という言葉を耳にすると、つい「国宝」や「重要文化財」に指定・登録されたメジャーなものばかりを思い浮かべがちです。しかし、私たちの身近には、行政から指定や登録という形で評価を受けていなくとも、気付けばいつもそこにいる存在であり、地元に根付いた“地域のアイデンティティを象徴するような文化財”が結構ありませんか? つい、“そこにあって当たり前”と思い込んでしまうのですが、今日まで残ってきたのは、地元の人々の手で大切に守り伝えられてきたから。
もし、あなたの地域の大切な文化財が経年劣化で存続の危機に陥ったらどうすれば…後世へと引き継ぎたいと願った時、最初に直面するのが、修理費用の捻出と、誰(又はどこ)に修理を依頼するかといった技術の問題などではないでしょうか?
様々な方法がありますが、そのアンサーのひとつとも言える特別展が京都の泉屋博古館で6月28日まで開催中です。特別展「文化財よ、永遠に2026 ―次代につなぐ技とひと」では、住友財団が1991年の創立以来、35年間活動を行っている「文化財維持・修復事業助成」の成果とともに、私たちが普段あまり知る機会がない、いわば文化財修理のバックグラウンドで実際にあった熱い物語に触れることができます。

35年間で1539件の文化財修理に関わってきた住友財団。実は、2019年に第1弾となる展示を開催しており、その際は、技術にフォーカスした内容でした。前回展の後、「うちの地域にある文化財をどうしたらよいのか」との声が多く寄せられたことから、第2弾の同展では、助成金を申請するにあたり、所有者や地域がどのような思いを抱いていたのか」にフォーカスしたのだとか。「修理しようとなったきっかけから、修理を終え、その後文化財がどのように守られているのかまでの過程を紹介することで、前回展へのアンサーになるのでは」と、同展担当の竹嶋康平学芸員は説明します。

白地綾織の絹6枚をつなぎ合わせた巨大な≪繻子地刺繍 仏涅槃図≫(京都・三寳寺所蔵)は、刺繡の涅槃図で、真ん中の立体的な釈迦如来部分が取り外し可能という、かなり珍しいもの。竹嶋学芸員は、「なぜ着脱できるのか理由は不明ですが、国内でこのようなものはこれだけです」と語ります。過去に一度も修理はされていません。
掛け軸ですが、制作技法は刺繍。そのため、掛け軸を修理する「

全額自己負担という修理費の壁に直面し、住職は、藁をもすがる思いで、同財団に申請。近年の住友財団助成金人気もあり、何度も落ちてしまったのですが、住職の情熱で5回目にして申請が通り、修理を完了した胸が熱くなる作品です。
住職は、修理工房と連携を取りながら、「守ってきた先人たちの心をどのように修理後も残せるか」に心を砕いたそう。制作年や背景が分かる墨書銘は、総裏紙に貼り付けて本体から切り離さないなど、過去の人々の思いを宿したままよみがえりました。年に一度、住職の絵解きとともに数日間の一般公開が行われています。

京都と高野山を結ぶ高野街道の道中、山間の小さな集落にある下岩瀬薬師寺(大阪府河内長野市)。この集落の約25世帯が守り続けた平安~鎌倉の古仏(5躯)は、かなり損傷が激しい状態だったそうです。そのため、地域住民が大切な仏像を修理しようと、河内長野市役所に相談しました。役所側も文化財指定を急ぎましたが、指定には手順を踏む必要があります。
修理の緊急性と文化財指定までの急場をしのぐため、市は民間の住友財団助成金を紹介し、助成が決定しました。その後、無事に市の指定文化財に登録され、市からも補助金が交付されたため、「市、住友財団、地域住民」の三位一体の行動により、約6年かけて5躯すべて修理されました。
まさに地域のアイデンティを象徴する文化財が連携プレイで守られた好例です。5躯のうち、展示されている≪釈迦如来立像≫≪毘沙門天立像≫(どちらも河内長野市指定文化財)は、通常非公開のため、ミュージアムでは今回が初公開という貴重な機会です。

麟祥院本堂障壁画「雲龍図」は、建仁寺の方丈襖絵 「雲龍図」を描いたことで知られる海北友松の息子、海北友雪が描いた作品。禅宗寺院の方丈で最も格式の高い室中を飾っていました。友雪は、妙心寺の塔頭である麟祥院を開基した春日局から徳川家光に紹介されたことで、絵師の道が開かれた画家です。
室中の東西それぞれに一頭ずつ龍が描かれた襖絵なのですが、住職は、修理後に文化財にとって適切な温湿度環境と防犯管理が整った博物館への寄託を望んでいました。しかし、方丈は禅宗寺院にとって本堂ともいえる中核をなす場所であり、そこから、この寺にゆかりが深い文化財が消えることは、ある意味、寺のアイデンティティの喪失に繋がります。
偶然にも、以前、檀家の1人が開発したデジタルスキャナーで、デジタルデータを残しており、これを基に精巧な複製襖を作成し、取り付ける判断をしました。修理でよみがえったオリジナルの龍二頭、新たに誕生した複製の二頭、合計四頭の龍が存在しています。
最後に、竹嶋学芸員は、「住友財団の成果の展示として、出陳を快諾いただきました。その文化財が一堂に会した展示室は、結果として、次世代へ残したいという思いに溢れた空間になりました。ただし、未指定でまだ世に広く知られていない貴重な文化財にも、修理の手が回っていないのが現状です。文化財所有者の中には、住友財団の助成金の存在を知らない方も多いと思いますので、助けを求める先の選択肢の一つとして、これを契機に覚えていただければ」と語ってくれました。
展示の文化財は、各代の先人たちの思いと現代の人々の思いが重なり生まれた深い物語を背景に持っており、助成金による修理で未来へ繋ごうとしたことで、新たな物語が生まれ、その積み重なりが歴史になっていくことを示しています。
特別展「文化財よ、永遠に2026 ―次代につなぐ技とひと
住友財団文化財維持・修復事業助成の成果展示」会場:泉屋博古館 (京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24)
公式HP
会期:2026年4月4日(土)~6月28日(日)
1期:4月4日(土)~5月6日(水)
II期:5月9日(土)~5月31日(日)
III期:6月2日(火)~6月28日(日)
開館時間:10:00~17:00 (入館は16:30まで)
休館日:月曜日
観覧料:一般1,200円、学生800円、18歳以下無料
※学生・18歳以下は証明書要提示
※本展覧会の入館料でブロンズギャラリーも観覧可能
※障がい者手帳等呈示で本人および同伴者1名まで無料
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