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2024.11.6

【能登の文化 復興のいま・3】貴重な歴史資料救う 文化財レスキュー活動

学生も参加して行われた古文書の整理作業(金沢市の石川県立歴史博物館で)

石川・能登地方の原風景を象徴する黒瓦とも呼ばれる能登瓦や、豊かな歴史をいまに伝える古文書。これら数多くの文化財や文化施設は今年の地震、水害によって保存・継承の危機に直面している。そんな中、立ち上がったのが建築・歴史などの分野で専門的な知識を持つ有志たちだ。復興道半ばの被災地で、能登の文化を守るために奮闘する人々の取り組みを紹介する。

能登半島地震をきっかけに、石川県内の大学や自治体の文化財担当者、博物館関係者らが「いしかわ歴史資料保全ネットワーク(いしかわ史料ネット)」を結成した。古文書や絵図、写真などの貴重な歴史資料を守る「文化財レスキュー」活動に取り組んでいる。

〔2024年〕10月20日、県立歴史博物館(金沢市)で史料ネットに所属する専門家ら約20人が集まり、被災した史料の整理作業を行った。机に広げられたのは珠洲市蛸島たこじま町の旧家に伝わる近世・近代の古文書類。漁業や土地・金融関係などの古文書が多く、当時の漁場を描いた絵図もあり、能登の産業の歴史を知る上で貴重だ。

珠洲市は地震で甚大な被害を受け、旧家も解体を余儀なくされたが、数千点の古文書類は所蔵者が安全な場所に移し、その後、同館で保管されている。将来的な歴史研究への活用を見据え、現在は目録作りの最中だ。

整理作業には金沢大や金沢学院大で歴史を専攻する学生も参加。「実際の古文書に触れながら学ぶことができる貴重な機会。能登の役に立ちたいとの思いで参加してくれる学生も多い」。同ネット代表を務める本多俊彦・金沢学院大教授(日本中世・近世史)は話す。

同ネットのメンバーは地震後、能登各地に足を運んで、国の専門機関「文化財防災センター」などとも連携しながらレスキュー活動を行っている。被災地の歴史資料は倒壊した建物の下敷きになったり、壊れた蔵の中に取り残されたりしていることが多い。「一見価値のない『がらくた』でも、実は大切な宝物かもしれません」と、住民らに廃棄しないよう呼びかけている。

被災地で行われている古文書のレスキュー作業の様子=いしかわ史料ネット提供

能登は9月に豪雨災害にも見舞われた。歴史資料についても、新たな被害が生じたことが懸念される。同ネット事務局長の上田長生・金沢大教授(日本近世史)は、「相次ぐ災害でやむなく廃棄を検討する方もいるかもしれない。雨にぬれたり、泥だらけになったりした古文書も修復は可能。史料の保管や取り扱いで困ったことがあれば、ぜひ相談してほしい」と訴える。

(2024年11月3日付 読売新聞朝刊より)

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