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2023.10.4

【皇室の美】国宝「金沢本万葉集」— 料紙の優美 書の流動美

国宝「金沢本万葉集」 巻第二(部分) 藤原定信筆 皇居三の丸尚蔵館収蔵 〔2023年〕11月5日まで展示

「令和」の元号の典拠としても著名な、現存するわが国最古の歌集『万葉集』は、大伴家持ら万葉歌人のほか、天皇・皇后や庶民の歌を収める。それを平安時代に書写した貴重な古写本のひとつが「金沢本万葉集」である。もと二十巻と推測されるが、当館収蔵の国宝を含め、現在は巻第二、三、四、六の残巻のみが伝わる。

料紙りょうしは日本製の唐紙からかみで、白や黄の地色の上に、菊唐草や波、瓜、七宝つなぎなど、さまざまな型文様を用いた雲母きらりが両面に施され、今もなお美しい輝きを放つ。筆者は、藤原行成に始まる書の名門・世尊寺せそんじ家の5代・定信(1088年~?)で、躍動感のある軽快な筆致が見て取れる。

定信は23年かけて一切経五千余巻をひとりで書写する一筆いっぴつ一切経いっさいきょうの大事業を成し遂げ(『宇槐記抄うかいきしょう』仁平元年十月七日条より)、その翌年の1152年(仁平2年)、定信の来訪を受けた藤原頼長は礼拝したという。『今鏡』には「ただ人ともおぼえ給はず」と記されるなど、筆の速さとともにその偉業が伝えられるが、自在に筆を運ぶ金沢本もそれを示すものといえよう。

「金沢本」の名称は金沢藩(加賀藩)前田家の伝来にちなむもので、3代藩主・利常の遺愛の品であったことが、5代藩主・綱紀の箱書はこがきから知られる。

当館収蔵の国宝「金沢本万葉集」は、1910年(明治43年)に明治天皇が東京本郷の前田邸に行幸したさい、16代当主・利為としなりによって献上された、巻第二の大部分と、第四の小部分である。これは献上にあたって分割されており、一部を前田家にとどめている。

今回は、そのうちの巻第三の断簡と第六の断簡を合わせた一冊(前田育徳会蔵、国宝)も同時に展示され、2015年(平成27年)の「加賀前田家百万石の名宝」展(石川県立美術館)以来の再会となる。

制作から900年ほどを経た今も優美にきらめく料紙と、その紙面を走る定信の書の流動美をご覧いただきたい。

(皇居三の丸尚蔵館研究員・山田千穂ゆきほ

■ 皇居三の丸尚蔵館収蔵品展 皇室と石川―麗しき美のきらめき―

【会期】〔2023年〕10月14日(土)~11月26日(日)
11月6日(月)は休館

【会場】石川県立美術館、国立工芸館(金沢市出羽町)

【主催】石川県立美術館、国立工芸館、いしかわ百万石文化祭2023実行委員会、宮内庁、文化庁、国立文化財機構

【共催】北國新聞社

【特別協力】紡ぐプロジェクト、読売新聞社、前田育徳会

【問い合わせ】石川県立美術館076・231・7580、国立工芸館(ハローダイヤル)050・5541・8600

(2023年10月1日付 読売新聞朝刊より)

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