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2023.4.6

【修理リポート】随心院・重文「木造阿弥陀如来坐像」、上杉神社・重文「服飾類」、上品蓮台寺・国宝「絵因果経」

※末尾に国宝「普賢菩薩像」トークイベントのお知らせあり

随心院「木造阿弥陀如来坐像」

漆箔の剥落止め中心に処置

修理を終えた木造阿弥陀如来坐像について担当者から報告を受ける亀谷門跡(中央)

随心院(京都市山科区)の重要文化財「木造阿弥陀あみだ如来にょらい坐像ざぞう」(平安時代後期)の修理作業が終了し、修理報告会が〔2023年〕2月、京都国立博物館の文化財保存修理所(同市東山区)で開かれた。

仏師・定朝の流れをくむ作者による平安時代後期の制作とみられ、1917年(大正6年)に当時の国宝に指定された。前回修理から100年以上が経過し、漆箔しっぱくが下地から浮き上がるなど剥落はくらくが進行していた。

報告会では、修理を担当した「美術院」の門脇豊研究部長が、像の内部の様子などを見せながら剥落止めを中心とした修理について説明した。

随心院の亀谷かめたに英央えいおう門跡(61)は「仏さま内部の生々しいのみの跡を目の当たりにして驚いた。修理を通じてきれいになったうえ、仏師たちの意気込みや歴史に触れることができたのは大きな喜び」と話した。

上杉神社「服飾類」

横糸整え、模様部分を接着 

修理状況の説明を受ける上杉邦憲さん(中央)(京都市東山区で)

戦国武将・上杉謙信をまつる上杉神社(山形県米沢市)所蔵の重要文化財「服飾類」(室町時代~桃山時代)について、関係者が2月、京都国立博物館の文化財保存修理所で作業の進捗しんちょくを確認した。

88点のうち修理が進む4点で、謙信と豊臣政権の五大老で初代米沢藩主の上杉景勝が着用したと伝わる。修理を担当する「松鶴堂」の依田尚美・染織担当課長が説明した。

鮮やかな黄色の「黄地きじ平絹へいけん流水りゅうすい梅扇面ばいせんめん描絵かきえ胴服どうふく」は裏地に残っていた横糸を1本ずつ整えた後、劣化を防ぐために絹のきれで覆った。濃淡の茶色が交互に織られた「茶地ちゃじ竹雀たけにすずめ丸紋まるもん綾片あやかた身替みがわり胴服どうふく」は剥離はくりし始めていた模様部分を再び接着した。

細線で模様が描かれた「黄地平絹流水梅扇面描絵胴服」
彩色部の顔料に浮きが目立つ「白地雲竜平絹彩色陣羽織」

金銀襴きんぎんらん緞子等どんすとう縫合ぬいあわせ胴服どうふく」は16種の舶来の裂をパッチワークのように縫い合わせた斬新なデザインの小袖で、損傷が激しい茶色部分をのりで補強した。鮮やかな色合いの雲竜が目を引く「白地しろじ雲竜うんりゅう平絹へいけん彩色さいしき陣羽織じんばおり」は顔料の浮きを接着した。

最終年度となる2023年度は保管方法を協議しながら仕上げに入る計画で、17代当主の上杉邦憲さん(79)は「貴重な技術のおかげで先祖が袖を通した着物が後世に伝えられることに感謝したい」と話していた。

上品蓮台寺「絵因果経」

料紙の原料 コウゾと判明

調査結果を確認する高井住職(左端)ら

国宝「絵因果経」(京都・上品蓮台寺じょうぼんれんだいじ蔵)の修理作業の方針を決める検討会が2月、京都国立博物館文化財保存修理所で行われた。

絵因果経は、釈迦の伝記を伝える「過去現在因果経」に、経文の内容を表す絵を添えた経典で、奈良時代(8世紀)に中国の原本を書写して制作したと推定される。

修理を担当する「修美」が、巻物の状態から解体した23枚を調べた結果、冒頭部分は水ぬれとみられる染みなどが目立つが、最後の部分はきわめて状態が良い。前半部分を中心に欠けている部分は補修紙で埋めている――などの現状が報告された。

また、料紙は麻と考えられていたが、高知県立紙産業技術センターで調査したところ、コウゾが原料で不純物が少なく、繊維が短く細断されたきめ細かい紙とわかった。ほぐしてき直した可能性も考えられるという。修理にあたっては、欠けた部分を補う新たな材料などを検討し、表具きれは制作当時の奈良時代にふさわしいものを新たに織ることとした。

高井隆成住職(75)は「最先端の調査で新しい発見もたくさんあり、絵因果経について深く知ることができた」と話していた。

◇     ◇     ◇

「普賢菩薩像」展示へ イベント、記録本も

3年間の修理を終えた国宝「普賢菩薩像ふげんぼさつぞう」が、〔2023年4月〕11日から5月7日まで東京国立博物館国宝室で展示される。

展示期間中には、修理にあたった「半田九清堂」の技師らによるトークイベントを行い、約100年ぶりとなった修理の現場のもようなどを聞く。

4月15日午後1時から。同館平成館大講堂。申し込みは、9日までに 紡ぐプロジェクト公式サイトへ。

普賢菩薩像の観覧料は一般1000円、大学生500円。開催中の特別展「東福寺」のチケットでも観覧できる。問い合わせはハローダイヤル(050・5541・8600)。

また、修理の工程などを記録した「国宝 普賢菩薩像 令和の大修理 全記録」(東京美術)を同館などで販売する。

 

紡ぐプロジェクトとは

国宝や重要文化財、皇室ゆかりの名品、伝統文化、技術などを保存、継承していく官民連携の取り組み。文化庁、宮内庁、読売新聞社が2018年に開始した。展覧会の収益の一部や、企業からの協賛金などを活用し、文化財の修理を助成し永続的な「保存・修理・公開」のサイクル構築を目指す。これらの文化財の魅力や修理作業の経過に加えて、次世代に伝える伝統芸能、工芸の技術などを、紙面やサイトを通じて国内外へ情報発信している。

 

(2023年4月2日付 読売新聞朝刊より)

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