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2024.1.12

【修理の時、来たる1】秘仏の本尊 運慶晩年の傑作 ― 国宝「弥勒仏坐像みろくぶつざぞう」(奈良・興福寺蔵)

2024年度「紡ぐプロジェクト」修理助成対象選定

国宝「弥勒仏坐像みろくぶつざぞう 運慶作 奈良・興福寺蔵
秘仏として大切に伝えられてきたが、前回の修理から40年を過ぎて劣化が進行してきている。光背、台座を含め1年をかけて慎重に修理する=迫直往撮影

2024年度の「紡ぐプロジェクト」修理助成事業は、兵庫県から国宝「聖徳太子および天台高僧像こうそうぞう」(一乗寺蔵)、三重県から重要文化財「聖徳太子勝鬘経しょうまんぎょう講讃こうさん図(西来寺せいらいじ蔵)、福井県から同「八相はっそう涅槃ねはん図」(つるぎ神社蔵)が初めて申請されるなど地域的な広がりを見せ、過去最多の9件に決まった。いずれも劣化が進み、特に絵画や文書は折れや染みなどが顕著という。貴重な文化財を後世に伝えるため、素材を調査し修理方法を検討したうえで、1年~数年の作業が始まる。

 

興福寺北円堂の本尊・弥勒仏坐像は、両脇に立つ無著菩薩像、世親菩薩像(いずれも国宝)とともに鎌倉時代の仏師、運慶が一門を従えて制作した。静かな面相、ほどよい肉付き、整った衣文えもん(衣のしわ)などが鎌倉時代木彫像の頂点を示す運慶晩年の傑作として知られる。毎年、春と秋に特別公開し、多くの参拝者を集める。

像高約141センチ。カツラ材を用いた寄せ木造り、漆箔しっぱくの像で、八角形の裳懸座もかけざの上に座る。1934年(昭和9年)に解体修理を行った際、本像内の頭部と背部から小さな厨子ずしや願文、経巻、弥勒菩薩の立像(約7センチ)、水晶の玉とその台座などがみつかった。経巻や願文に記載の内容から、1200年代初め頃には、ほぼ完成していたと判明した。

40年ぶりの修理に着手する国宝「弥勒仏坐像」 ©飛鳥園 表面の剥落を止め、台座の虫食いや損傷部分の材質を強化する

1983年(昭和58年)に修理を行ってから、40年を経て劣化が進行しているという。本体背面の漆箔層の浮き上がりを止め、台座の虫食い、損傷部分の材質強化が必要だ。

無著像、世親像はたびたび展覧会などに出されており、その都度、損傷部分をチェックして、必要に応じて修理を行ってきた。弥勒仏坐像は秘仏の本尊として長い間堂内に置かれていたため、経年劣化の状況を調べるのが難しかった。

修理は本体、光背、台座で浮き上がった漆箔の剥落はくらく止めを行う。工期は1年間で、修理後は、2025年に東京都内で展示する予定だ。

北円堂(国宝)前で森谷英俊貫首

森谷英俊貫首(74)は「仏像は堂内一か所に安置したままであっても、長い間に表面の漆箔の剥落や虫食いが進むことがあり、本像のことが気になっていた。最新の技術を用いて修理を行っていただくことになり安心した。国民の宝を後世に伝えていくうえで本当にありがたいと感じている」と修理に期待を寄せた。

助成のあり方に知恵を/岩佐光晴・選考委員長

2019年度にスタートした紡ぐプロジェクトの文化財修理助成も5年がたち、徐々に認知度が上がってきたようだ。24年度の選考には、これまでで最も多くの申請が寄せられた。

申請が増えるのは一見良いことのように思えるが、新たな課題も浮かび上がってきた。

国宝や重要文化財を修理する際の費用は、その半分から85%ほどが国からの補助金で、残りは所蔵者が負担しなければならない。地元の都道府県や市町村からの補助金は自治体によって差があり、全く補助がないところもある。

紡ぐプロジェクトは、協賛社の支援をもとに所蔵者負担の一部を助成しているが、件数が増えれば1件あたりの助成額は限られる。所蔵者によっては費用を賄いきれず、修理を諦めざるを得ない――という苦渋の判断もあるだろう。

適切なタイミングでの修理を1件でも多く進めるため、国も自治体も民間も、さらに知恵を絞る必要がある。(成城大教授)

(2024年1月7日付 読売新聞朝刊より)

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