美と技は、人々の思いがあってこそ守り継がれます。400年に及ぶイギリスとの交流を通じ、日本の最高峰の工芸の技と美は、ロイヤルファミリーを魅了し、大切に保管されてきました。今月の「紡ぐプロジェクト」特別紙面は、英国・バッキンガム宮殿そばの「クイーンズギャラリー」で開催中の展覧会「海を渡った日本と皇室の文化」です。
日本とイギリスの交流は、徳川将軍家の慶長時代に始まった。後に皇室と英国王室が互いに訪問を続け親交を深めるようになるとともに、贈呈された日本の美術・工芸品が高く評価され、英王室、イギリス人を魅了した。「海を渡った日本と皇室の文化」は、鎖国、第2次世界大戦をはさみながら、脈々と今に続く日英交流の歴史と、皇室と王室の深いつながりがうかがえる展覧会だ。
「海を渡った日本と皇室の文化」を企画したレイチェル・ピート担当キュレーターに、展示のねらいなどを聞いた。
英国王室には最高峰の日本の芸術作品が所蔵されている。今回の展覧会は、非常に貴重な作品を披露できる初の機会となった。
英国王室と日本の皇室は深いつながりがあり、コレクションには皇室を象徴する菊の紋が刻まれたものも多くある。展示を通じて英国と日本、特に王室と皇室の他に類を見ないユニークな関係性と友情を伝えたい。
作品は美術館やギャラリーなど様々な場所に貸与されたほか、バッキンガム宮殿やウィンザー城など王室の邸宅でも展示された。
例えば、明治天皇からビクトリア女王の息子アルフレッド王子に贈られた短刀は、(現国王の皇太子時代の公邸だった)クラレンスハウスに飾られた。ジョージ5世の妻メアリー王妃は日本芸術の愛好家で、美しい兎の磁器を気に入ってバッキンガム宮殿に飾っていた。
ロイヤルコレクションの所蔵品には、鎖国が続いていた江戸時代に王室メンバーが自ら収集したものもある。代々の王族が日本や日本の芸術を高く評価していたことも、保管されている手紙や日記から判明している。
今回の展覧会は、当初は2020年に開催する予定だったが、新型コロナで延期になった。今回開催できたことを非常にうれしく思う。
今回の展覧会が開催されているクイーンズギャラリーは、ロンドン中心部のバッキンガム宮殿のそばにある。見学者に無料貸与されるオーディオガイドは日本語版が特別に用意され、英語が苦手な観光客でも楽しめる。会場内で販売している図録にも邦訳版がある。
日本の芸術作品は表面や外側だけでなく、内側や裏面などにも美しい装飾が施されていることが多い。展示は、作品の細部まで味わえる工夫がなされている。
オーディオガイドの端末画面には、作品の装飾などを拡大した動画が流れる仕組みとなっている。鶴の刺しゅうが施された屏風など一部の作品はガラスカバーなしで展示され、その技巧と迫力を目の前で味わえる。会場では多くの見学者が屏風のそばに寄り、スマートフォンで撮影していた。展覧会は2023年2月26日まで。
ロイヤルコレクションには1000点以上の日本の芸術作品があり、今回の展覧会ではそのうち約150点が披露されている。見学は予約制。展示品以外はロイヤルコレクションのウェブサイトで楽しめる。
ロイヤルコレクションとは(The Royal Collection)
英王室が収集、保有する美術品コレクションは、美術のあらゆる分野に及びレオナルド・ダ・ビンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、レンブラントらの作品から、美術品以外の調度品、食器、宝石、武具まで100万点を超える。ベッド、壁掛けなど現在も王室で使われている調度品まで含むのが特徴だ。
ヘンリー2世(1133~89年)、リチャード1世(1157~99年)が戴冠式に使用した儀式用スプーンが最も古く、コレクションの大半はチャールズ2世(1630~85年)が集めたという。このため、美術館の系統だったコレクションとは異なり、500年に及ぶ歴代の国王の趣味嗜好と日本の皇室など海外との交流を反映している。
1987年以降は英国王室府の一部門となったロイヤルコレクション・トラストが管理と一般向けの展示を担当、今回の展覧会「海を渡った日本と皇室の文化」を主催している。
(2022年12月6日付 読売新聞朝刊より)
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