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2021.9.19

【三の丸地方展開 vol.4】皇室と地方、交流の証し~宮内庁・朝賀参事官に聞く

宮内庁三の丸尚蔵館は、今秋から宮城、宮崎、和歌山の3県で、各地ゆかりの所蔵品を紹介する展覧会を開催する。皇室文化に理解を求め地方文化の振興を後押しするため、政府が推進する三の丸尚蔵館の「地方展開」の一環だ。

三の丸尚蔵館の今後の展開について、宮内庁の朝賀あさか浩・参事官に聞いた。(読売新聞文化部 多可政史)

宮内庁の朝賀浩参事官

――地方展開の狙いを。

三の丸尚蔵館は現在、機能拡充を目的とした新施設の建設工事を行っています。館内で展示ができない工事期間を前向きに捉えて、全国津々浦々の皆様と結びつきを深められないかと考えました。

三の丸尚蔵館には、教科書に載っているような有名な絵が多いという印象を持たれているかもしれませんが、それだけではなく、日本の各地域を題材にした作品、各地から皇室に献上された作品も多くあります。これらの作品の展示を通じて地方と皇室の縁を感じていただき、ひいては皇室に親しみを持ってもらうきっかけになればと願っています。

――各会場ではどのような作品を展示しますか。

各県・地域の出身者や、ゆかりが深い画家の作品をできるだけ多く紹介し、地域色豊かで個性的な展示にしたいと思っています。

各地の景勝地や伝承などが描かれた絵も見どころです。明治時代から昭和初期にかけては、皇族や政府要人が各地を視察する際、画家が同行してスケッチを残すこともありました。これらの絵は、当時の地方の風景を今に伝える貴重な記録でもあります。

皇室の慶事の際に趣向を凝らして作られるボンボニエールも展示会場と皇室の交流の証しとして展示しますので、ぜひ、ご覧になっていただきたい。

――三の丸尚蔵館の今後の目標を。

現在、三の丸尚蔵館では抜本的な機能拡充を目指して新施設建設工事を行っているところです。これまで以上に多くの方々に三の丸尚蔵館の作品に親しんでいただくとともに、地域の文化の魅力を伝えるお手伝いができればと思っており、三の丸尚蔵館の地方展開が、そのきっかけの一つになればと願っています。

新施設は2026年度の開館を予定しています。やや手狭だった展示スペースを拡張し、実物の魅力を実感していただく環境を作ることが新施設建設の狙いです。完成までに地方展開を含めて積極的に事業を進めて三の丸尚蔵館の知名度をより高め、新施設がオープンする際に、多くの方に足を運んでもらえるようにしたいと思います。

三の丸尚蔵館 皇室ゆかり 9800点収蔵 
三の丸尚蔵館(宮内庁提供)

三の丸尚蔵館は1992年9月に皇居東御苑に建設され、93年11月3日に開館した。収蔵品は昭和天皇まで代々継承された御物の絵画・工芸品など約6300点に始まり、その後も皇室関連の遺品や寄贈品が加わり、現在は約9800点が収められている。

三の丸尚蔵館はこれら貴重な品々の保存管理を徹底した上で調査研究を行い、定期的にテーマ展示を開き、一般に公開している。

宮内庁は展示スペースを拡充するため、建て替え工事を進めている。2023年度に一部を開館、26年度の全館開館を目指している。

国宝指定 価値明示へ 
「紙本著色蒙古襲来絵詞」(前巻、部分) 鎌倉時代(13世紀)

文化審議会は7月、安土桃山時代を代表する絵師・狩野永徳の屏風びょうぶ唐獅子図からじしず」、モンゴル軍による元寇げんこうの様子を描いた「蒙古もうこ襲来しゅうらい絵詞えことば」など、三の丸尚蔵館の収蔵品を国宝に指定するよう、文部科学相に答申した。学術的価値が明確となり、展示や研究などの活用が広く進められることが期待される。

指定の対象は、このほかに、鎌倉時代のやまと絵絵巻の最高峰「春日かすが権現ごんげん験記絵げんきえ」、江戸時代の絵師・伊藤若冲による代表作「動植どうしょく綵絵さいえ」、平安時代の書の「三蹟さんせき」の一人、小野道風が手がけた「屏風びょうぶ土代どだい」を含む計5件。

三の丸尚蔵館には、天皇家が継承し、昭和天皇の崩御後に国に寄贈された美術品などが収蔵されている。十分な保護がされているため、文化財として指定されてこなかったが、2018年に宮内庁の有識者懇談会が「国宝や重要文化財の指定も含め、貴重な作品の美術史的・歴史的・学術的な価値を分かりやすく表示することを考える時期に来ている」と提言、条件の整った5件が選ばれた。

(2021年9月11日読売新聞から)

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