2022.1.14

【22年度修理品から①】国宝・扇面法華経~貴族や庶民、多彩な風俗

2022年度の「紡ぐプロジェクト」修理助成事業は、九州から初めて選定された重要文化財「東妙寺文書」を含め6件に決まった。先人の残した貴重な歴史資料は、鮮やかな色彩とともに時を超えて伝わってきたが、傷みや劣化が目立つ。所蔵者、関係者らは次代に向けた保存と修理へ慎重に対応を進めている。

国宝 扇面せんめん法華経ほけきょう (大阪・四天王寺蔵)

扇面法華経 巻第一 扇八(東京文化財研究所・城野誠治撮影)

雲母や金銀のはくで美しく装飾された扇形の冊子に、やまと絵で貴族や庶民の多彩な風俗が描かれ、法華経などが写経されている。

井戸端でお尻を洗われる子ども、栗拾いに興じる人々などが生き生きと描写され、まるで12世紀の平安京の町の一部を眺めているかのようだ。中国から渡来した風習に基づき七夕にかじの葉を飾るなど、現在とは異なる当時の暮らしをうかがい知ることもできる。

お経と絵の内容は直接は関連していない。生きとし生けるものをすべて仏の世界に結びつけるという法華経の思想を反映してか、あるいは世俗的な事柄と宗教とを同居させる遊び心からか。作者の真意はもはや不明だが、今なお見る者を引きつけてやまない。

お経や絵が描かれている扇形の冊子は類例がなく、極めて特異だ。四天王寺に伝来したが製作事情は明らかでなく、鳥羽上皇の皇后高陽かやのいん泰子たいしが仁平2年(1152年)の参詣の際に奉納したと推定されている。

雲母や絵の具、墨の剥離はくりが生じており、5年かけて修理する。薄い雲母を貼って水が凍っている場面を表すなどの技法が使われており、修復には高度な技術が要求される。

四天王寺の南谷恵敬・勧学部長(大阪市天王寺区で)

「助成を受けられるのは大変ありがたい。傷みがひどくなっていたので、修理が決まってほっとしています」。四天王寺勧学部長の南谷みなみたに恵敬えけいさん(69)は、安心したような表情で話した。

寺は593年に聖徳太子が建立。戦火や自然災害で焼失を繰り返したが、太子信仰のもと、天皇・貴族層から庶民まで幅広い支援を受けて幾度も復興した。

「扇面法華経冊子などの小さな宝物は長持ちにしまわれ、火災や地震の時はお坊さんたちが持ち出して難を逃れた。この繊細で美しい美術工芸品を、後世まで守り伝えたい」と語った。

(2022年1月9日読売新聞から)

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