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2022.1.15

【22年度修理品から②】国宝・絵因果経~釈迦の伝記の経文、挿絵入り

2022年度の「紡ぐプロジェクト」修理助成事業は、いずれも重要な国宝や重要文化財など6件が新規に加わった。このうち京都・上品蓮台寺所蔵の国宝を紹介する。

国宝 絵因果経えいんがきょう (京都・上品蓮台寺蔵)

国宝 絵因果経(部分)

10メートルを超える巻物の下部に、釈迦の伝記である「過去現在因果経」を、上部にその代表的な場面を挿絵のように描いた経典だ。

少年時代の釈迦が七つの的を1本の弓矢で一度に射抜く場面や、城門から外に出て初めて病人を見る場面、田を耕す場面などが、色鮮やかな絵の具で描かれている。

中国から伝来したと思われる原本を、奈良時代に書き写した。だが、中国では同時代の同様の絵因果経の現存は確認されておらず、アジアの仏教文化圏を見渡しても貴重な品。加えて、日本の絵画としては最古の部類に属し、平安時代以降に発展する絵巻物の原型となるなど、日本絵画史においても重要な意味を持つ。

国宝 絵因果経(部分)

古い様式を今に伝える絵画と端正な楷書は、どこか親しみやすさを感じさせる。いにしえの人々がこの経典を眺め、仏教の世界へいざなわれたことに思いをはせるのも面白い。

■ 修理のポイント

経年劣化により、紙の汚損や裏に貼った裏打うらうちがみからの剥離はくり、顔料の亀裂などが見られる。3年かけて、絵の具の安定化や裏打紙の取り換えなどを行う。

奈良時代の絵画の修復が行われること自体が珍しく、当時使用されていた絵の具の原料などについて、修理の過程で明らかになることも期待される。

(2022年1月9日読売新聞から)

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