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2025.6.5

【修理リポート】国宝「薬師如来坐像」(奈良・新薬師寺蔵)― 台座に多数の虫食い 分解し修理

2023年度から修理を進めてきた新薬師寺(奈良市)の国宝「薬師如来坐像」(平安時代前期)の台座の修理が完了し、〔2025年〕3月半ば、同寺本堂に戻された。

台座は、衣が正面に垂れる「裳懸座もかけざ」の形式。本尊と同時の制作とみられている。本格的な修理から120年余りが経過。安置される須弥壇しゅみだんが土製で地面からの湿気の影響を受けやすく、木材などを腐らせる菌による傷みが各所で確認されたほか、虫食いも多数見つかった。衣の漆箔層しっぱくそうでは浮き上がりが見られた。

仮の台座(左)から修理された台座へ移される薬師如来坐像(3月11日、奈良市で)

このため台座を分解して移動し、2023年10月から奈良国立博物館の文化財保存修理所で修理を開始した。地面と接する部分に板材を補い、虫食いによる穴は樹脂を用いて埋めた。漆箔層の浮き上がりは樹脂などで剥落はくらく止めを行った。

修理を終えた台座は3月10日に同寺本堂に搬入し、仮設の台座と入れ替えた。翌11日には、一足早く23年度に修理を完了していた光背を元の位置に戻し、薬師如来坐像本体を台座上に安置した。

本体は、ほこりの付着や修理箇所の変色が見られた程度で、台座に比べ良好な状態だった。そのためほこりを除去し、変色した部分が目立たないように補彩を行い、23年度に修理を終えていた。

中田定観住職(80)は「台座の傷みがずっと気になっていたが、私だけでは何もできなかった。皆さんのおかげで台座をはじめ光背などもしっかりと修理をすることができた。薬師さんを未来に伝えるうえで本当にありがたいこと。感謝の気持ちでいっぱいだ」と語った。

(2025年6月1日付 読売新聞朝刊より)

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