国宝「泉涌寺勧縁疏」(京都・泉涌寺蔵) 俊芿筆 鎌倉時代
皇室ゆかりの「御寺」として知られる京都・泉涌寺所蔵の国宝「泉涌寺勧縁疏」は、2020年6月から紡ぐプロジェクトの助成で修理が進んでいる。9月半ば、京都国立博物館・文化財保存修理所で、所蔵者らが作業の様子を確認した。
「泉涌寺勧縁疏」は、中国・南宋で学んだ俊芿が1219年(承久元年)、寺院創建へ寄付を願った文書で、後鳥羽上皇に献上し、天皇家からの支援を得て、開山の礎を築いたとされる。
美しい料紙に筆遣い…「プレゼン能力」の高さ伝わる
本紙は赤や青などの「蝋牋」と呼ばれる特殊な料紙を継いで使っているのが特徴だ。胡粉などの絵の具で色を塗り、版木の上に紙を置いて摺摺って文様を描き出している。
泉涌寺心照殿学芸員の西谷功さんは「珍しい紙や中国でも絶賛された筆遣いで、まず視覚的に関心をひく。俊芿が体験した宋仏教を再現する必要性を伝えるプレゼンテーション能力の高さが伝わります」と説明する。
2022年度いっぱいで完成へ
ただ、紙に塗られた絵の具の剥離が進み、その上の墨書が剥がれ落ちている箇所や虫食いによる欠損があった。
修理では、剥落を止めるため、膠を薄く溶いた水溶液で文字と文様をなぞり、さらに全体にも塗った。水を含ませ、汚れを浮き上がらせて吸着するクリーニングや、本紙裏側の裏打紙を除去したところ、本紙の裏側にも顔料が塗られていたのがわかった。
「修美」の大野恭子技師長は「絵の具層と墨で書かれた文字の剥落を止めるため、膠水溶液の濃度、筆や刷毛などの道具選びからこだわりました」という。
今後は、虫食いなどの欠損部分の補修や、巻物に仕立てるための表装裂を新調し来年度いっぱいで完成する見込みだ。
泉涌寺の渡邊恭章執事は「表からは俊芿律師が伝えたかった心、裏からは歴史を感じた。800年前のものがこうして残っているのは、間をつないでくれた人の気持ちや技があってこそ。後世まで残すことが一番の願いです」と話した。
(2021年10月3日付 読売新聞朝刊より)
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