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2025.5.10

【修理リポート】国宝「絵因果経えいんがきょう」(京都・上品蓮台寺じょうぼんれんだいじ蔵)― 水に溶けやすい染料 慎重に

修理が完了した絵因果経を見つめながら担当者から説明を聞く上品蓮台寺の高井隆成住職(手前左)ら(京都国立博物館で)

「紡ぐプロジェクト」の助成対象として修理を進めていた国宝4件、重要文化財4件が、2024年度の作業を終えて、所蔵元などに戻った。今月〔2025年5月〕と来月の2回にわたり、修理の詳細をリポートする。

上品蓮台寺(京都市北区)所蔵の国宝「絵因果経」は、2022年度から3年計画で修理を進めてきた。所蔵者、寄託先の京都国立博物館などの担当者が〔2025年〕3月28日、同博物館の文化財保存修理所で確認のため立ち会った。

絵因果経は10メートルを超える巻物。本紙の下部に釈迦の伝記である「過去現在因果経」を、上部にその代表的な場面の絵を描いている。中国から伝来した原本を、奈良時代に書き写したと考えられている。

中国では、同時代の同様の絵因果経は確認されておらず、アジアの仏教文化圏を見渡しても貴重な作品。日本の絵画としては最古の部類で、日本絵画史においても重要な意味を持つ。

しかし、経年劣化による紙の汚損や裏打ち紙の剥離、絵の具の亀裂などが見つかった。修理にあたった「修美」(京都市中京区)の担当者によると、本紙に使われた染料が水に溶けやすいことから、剥落止めや裏打ち紙除去において水の使用を短時間に抑え、慎重に進めることに苦心したという。

本紙の修理のほか、奈良時代の作品にふさわしい表紙を巻頭に、木軸、軸首を巻末にそれぞれ取り付けて巻物に仕立てた。

高井隆成住職(77)は「温度や湿度の管理を考えると、お寺で国宝を保管するのは困難。引き続き京都国立博物館に寄託し、多くの人に見ていただけたらうれしい」と語った。

(2025年5月4日付 読売新聞朝刊より)

紡ぐプロジェクトとは 国宝や重要文化財、皇室ゆかりの名品、伝統文化、技術などを保存、継承していく官民連携の取り組み。文化庁、宮内庁、読売新聞社が2018年に開始した。展覧会の収益の一部や、企業からの協賛金などを活用し、文化財の修理を助成し永続的な「保存・修理・公開」のサイクル構築を目指す。これらの文化財の魅力や修理作業の経過に加えて、次世代に伝える伝統芸能、工芸の技術などを、紙面やサイトを通じて国内外へ情報発信している。

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