「早来迎」は2019年4月11日、寄託先の京都国立博物館収蔵庫から、修理所に運び込まれた。傷んだ箇所を特定し、どのような作業を行えばよいか検討するための写真撮影を行った。表側の絵の具の剥落を
「今回の修理は、古い肌裏紙をどこまで取り除けるかにかかっていた」。文化庁の綿田稔・主任文化財調査官は振り返る。
旧肌裏紙は黒っぽく、表側の白い絵の具が際立つ一方、左下に描かれた山々や水の流れなどは見えづらくなっていた。「黒い肌裏紙を除去するのは大変な作業だった。また、肌裏紙の色調を変えるのは勇気がいるが、『やります』と言っていただけた。ここまで表側の絵が見えるようになるとは……奇跡的なくらいです」(綿田調査官)
古い肌裏紙を取り除いた後、裏側から顕微鏡や赤外光、蛍光X線などの撮影を行った。裏側の状況を確認できるのは修理のときだけで、100年に1度の貴重な機会。どのような絵の具が使われているか、下描きの様子などを調べたうえで、新しく用意した薄茶色の肌裏紙で本紙に2層の肌裏打ちを行った。
絹や紙に描かれた絵は、経年劣化で折れや亀裂ができてしまう。折れを抑えるため、3ミリ幅ほどの細いテープ状に切った紙を貼って、へらのような道具で抑えていく。
本紙の周りに取り付ける「表装裂」を新調した。本紙と表装裂の裏側にそれぞれ厚みの異なる紙で裏打ち(増裏打ち)を施して厚みをそろえたあと、つなぎ合わせて掛け軸の形にする(付け
本紙の絹に穴が開くなどしていた場合は、新しい絹を用意し、強度が周囲に合うよう劣化させて補うのが「
「ほかの部分と色が異なると鑑賞するときに違和感があるので、よくなじませなければならないが、後から補った、と後世の人が分かるようにする必要もある。慎重に色を選び、全体のバランスを確認しながら進めてもらった」と綿田調査官。中央に描かれた阿弥陀如来の頬の欠損部分が目立たないよう、年明けから文化庁担当者が連日のように作業の確認に足を運んだという。
今回の修理では、保存用の箱も新調した。今後は適切な温湿度のもとで養生し、数か月に1度、状態を確認する。
(2022年5月1日付 読売新聞朝刊より)
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