2021.8.4

最高の画材に仕上げのこだわり 一流の絵師による「早来迎」 山水の美もよみがえった【動画あり】

修理を担当する小島知英技師長(右から2人目)が作業について説明した(7月9日、京都国立博物館の文化財保存修理所で)

国宝「阿弥陀あみだ二十五にじゅうご菩薩ぼさつ来迎図らいごうず」(早来迎はやらいごう、京都・知恩院蔵)の修理助成事業で、これまでの作業内容や調査で判明したことなどを所蔵者らに説明し、今後の進め方について確認する関係者協議が7月9日、京都国立博物館(京都市東山区)の文化財保存修理所で開かれた。

知恩院の早来迎は鎌倉時代の仏画の傑作とされ、阿弥陀如来が雲に乗り、臨終にある人のもとへ、極楽へのお迎えにやってくる場面が描かれている。「紡ぐプロジェクト」での修理は3年計画で、2019年4月に同修理所内の「光影堂」(大菅直社長)に搬入され、修理前の調査、解体、表面の絵の具の剥落はくらく止め、クリーニングなどが行われてきた。

2020年は、絹に顔料で絵が描かれている「本紙」を支えるため、裏に貼られていた「肌裏紙」を取り除く作業を進めた。1934年に前回の修理が行われた記録があるが、その際、肌裏紙は外されておらず、繊維状に固まってしまった部分も多くあった。

下描きの線とこだわりの仕上げが明らかに!
本紙裏面の様子。透過光を当てながら赤外線撮影を行った(光影堂提供)

本紙の裏側の状態が確認できるのは、修理が行われるときだけ。修理は貴重な文化財調査の機会でもある。

今回は、透過光を当てながら赤外線撮影を行うことで、本紙裏に墨で描かれた下描きをはっきり確認することができた。さらに、下描きにはなかったが、表から描き足された箇所があることも明らかになったという。

例えば、阿弥陀如来の左手の下あたりや、本紙左上の雲などで、主任技師の沖本明子さんは「仕上げの段階になって、最後に全体のバランスを確認して描き足したのでしょう。細部まで繊細に、こだわり抜こうとする作り手の思いが伝わります」と話す。

下描きのないまま表から描き足されたとみられる雲
雲が描かれている実際の「早来迎」(光影堂提供)
描き足されたとみられる雲を取り除いた「早来迎」(イメージ、光影堂提供)
最高級の材料を使えるのは最高の絵師である証し 

また、早来迎には、群青など貴重な材料も使われていることも判明した。京都国立博物館・保存修理指導室長の大原嘉豊よしとよさんは、「洋の東西を問わず、青はあこがれの色でした。群青は金とほぼ同じ値段で取引されていたとも言われます」と説明する。

群青が用いられている箇所(光影堂提供)
表面の群青がはっきりと写った顕微鏡写真(20倍)(光影堂提供)

早来迎は誰が作らせたものなのか、誰の手によるものなのか、いずれも明らかではないが、「これだけの貴重な絵の具を任せられるということからも、上流階級の人物が一流の絵師に頼んだものであるのは明らかでしょう」と強調した。

そのほか、同じ白色でも、胡粉ごふん鉛白えんぱくを使い分けていたことも原材料の科学分析から確認された。

同じ白色だが、雲は鉛白、桜の花は胡粉を使って描かれているという。質感も異なる
木々や水の流れ 美が鮮やかによみがえった

修理前に施されていた肌裏紙などは黒みがかっていたが、今回は、それより明るめの色味のものが採用された。その結果、菩薩らの周囲に描かれていた木々や川の流れもはっきりと見えるようになった。枝葉の先まで美しく描かれていることに、専門家らからも感嘆のため息がもれていた。

表具裂の文様の図案も確認した

今後は、本紙の周りに施される表装裂ひょうそうぎれや軸木の端につける金具の金軸などが新調され、いよいよ仕上げの段階に入っていく。

縦1・45メートル、横1・55メートルのほぼ正方形の本紙に描かれた「早来迎」。修理を経て、山や水の流れなども鮮やかに見えるようになった

知恩院の前田昌信執事は「修理を経て、細かいところにはこんなものまで描かれていたのかという発見もありました。改めて素晴らしい絵師によって描かれたということが分かり大変ありがたい。完成が楽しみ」と期待を込めた。

(読売新聞事業局デジタルコンテンツ部 内田淑子)

【動画】「ためになるようにせい!」 知恩院・前田昌信執事が次世代につなぐ心について語ってくださいました

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