文化財の修理には多くの人が携わっています。作品そのものに触れる技術者はもちろん、その周りの表具や金具など部材を作る人、和紙や絵の具、糸など材料を作る人、筆や
刷毛 など道具を作る人――どれか一つが欠けても、未来へ守り継ぐことはかないません。継承を担う様々な技に光を当てます。
「
阿弥陀如来が諸菩薩を従えて、往生を願う臨終の念仏者の元へ飛来する様子が、縦1.45メートル、横1.55メートルのほぼ正方形の大画面に描かれている。鎌倉時代の仏画の傑作として知られ、1934年以来の修理が京都国立博物館(京都市東山区)の文化財保存修理所で行われた。修理では絵の具の
「明るくなったなぁ」――。3月下旬、同修理所の一室の壁に修理を終えた早来迎が掛けられると、関係者から感嘆の声が上がった。修理前は背景が黒っぽく沈んでいたが、
最大の理由は肌裏紙を取り換えたこと。昭和初期の前回修理では取り換えられておらず、修理前は部分的に重い泥のような一層が絹の裏に固まって貼り付いている状態だったという。真っ黒になった肌裏紙が絹目から透けて、背景が黒ずんでいた。
今回の修理では、古い肌裏紙を除去して薄茶色の新しい肌裏紙に交換した。筆に含ませた水で古い和紙を少しずつ湿らせ、ピンセットでほぐして取り除くという根気のいる作業が、約3か月続いた。
新たな発見もあった。調査のため裏面に赤外線を照射したところ絵の具の下に隠れていた下描きの墨線が明瞭になり、「下絵の段階から変更されたと思われる部分が少ないことが分かった」(修理を担当した光影堂の小島知英技師長)という。構図が当初からしっかり練られていたことの証左で、京都国立博物館保存修理指導室の大原嘉豊室長は「京都のトップクラスの絵師が描いたのではないか」と見ている。
さらに、阿弥陀如来は表から見ると金色だが裏側は白い彩色が施されていることも分かり「ある程度、古い技法を残している」(大原室長)ことから、制作年代は従来の推定より少し遡り、13世紀後半から14世紀初頭であることも分かったという。
(2022年5月1日付 読売新聞朝刊より)
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