日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2021.1.10

【21年度修理品から③】若冲、墨の表現 荒涼たる蓮池図

重要文化財 紙本墨画しほんぼくが蓮池図れんちず (大阪・西福寺蔵)

若冲の水墨画の代表作とされる紙本墨画蓮池図(部分、西福寺蔵)
■ はかない雰囲気

京都で青物問屋を営んでいた伊藤若冲じゃくちゅうは、天明の大火(1788年)で家を失い、大坂の薬問屋の主人に迎え入れられた。その時期に寺院の障壁画として描いたもので、極彩色のイメージとは異なる若冲の墨の表現を見ることができる。

紙本墨画蓮池図(部分)。大坂で1789年に制作したとみられる
元々は襖の裏面に描かれた絵で、1930年の修復の際に6幅の掛け軸に改装された

蓮池図というポピュラーな主題だが、たくさんのハスの花が咲く穏やかな風景ではない。余白の多い画面に朽ちたハスがポツンと描かれるなど、荒涼としてはかない雰囲気が漂う。

紙本墨画蓮池図(部分)
紙本墨画蓮池図(部分)

もともと、この作品は、金地に色とりどりの鶏やサボテンを配した華やかな障壁画「仙人掌さぼてん群鶏図ぐんけいず」の裏側に描かれたものだった。西福寺に残る両作品は、バラエティーに富む若冲の画風を象徴している。

紙本墨画蓮池図(部分)
■3年かけ解体修理 

本紙や表具の劣化や汚れが激しく、しわや剥がれも多く発生している。過去の修理で補った紙の色の違いなども目立っている。

本紙を裏側から支える裏打紙を取り換えるなど、3年かけて解体修理する。表具の一部も新調する。

(2021年1月7日読売新聞より掲載)

Share

0%

関連記事