髙島屋の和菓子バイヤー・畑主税さんが、毎月の行事や旬の素材にちなんだ、とっておきの和菓子を紹介します。11月は柿を使ったお菓子の数々。葉が散った木に、美しく色づいた柿の実が一つ、二つと残る景色は、郷愁を感じさせます。また、昔から手をかけて作り継がれている干し柿など、優しい甘みは、作り手のぬくもりまで伝えてくれます。
慶長16年(1611年)創業から400年の歴史を紡ぐ老舗・名門堂千原では、この季節になると栗のお菓子が多く並びますが、通年で作られている「里柿」も忘れるわけにはいきません。
小豆のこしあんに干し柿を含ませ、やや赤みがかったあんを
丹波の山里に熟す頃の柿の風情を彷彿させるように生み出されたそうで、どちらかと言えば、柿そのものの味わいを楽しむ菓子というよりは、風情を楽しみたい銘菓ではないかと思います。あんの部分は干し柿のヘタを、餅生地の部分は果肉の部分を、周りの砂糖は干し柿の表面の白い粉を表現しています。こしあんと求肥餅というシンプルな組み合わせの中に、ほのかに干し柿の風味が隠されているといった具合で、その素朴な味わいは、どこか懐かしさも感じさせます。
【里柿】9個入 税込879円
名門堂千原/京都府福知山市駅前町36
TEL:0773-22-2765
奈良からは、総本店柿寿賀の「柿寿賀」をご紹介します。熟成した干し柿を平らにして、柚子の果皮を細かく刻んだものを芯にしてしっかりと巻き上げたもので、棒状の姿は和菓子というより保存食のようにも見えます。
干し柿は不思議なもので、生では食べられない渋柿を使います。渋柿は乾燥させることによって、渋みが抜けて、砂糖をたっぷり加えたような甘みに変わります。甘柿をそのまま生菓子に使っている和菓子はほとんどない一方、干し柿を使った和菓子は多く、すり潰してジャム状にしたり、果肉を栗あんなどと合わせたり。まさに自然の甘味、和菓子の原点です。
じっくり冷やして、5ミリほどの厚さに切って食べるのがおすすめです。柚子の爽やかな風味も、うまくまとまっています。
【柿寿賀】1本 税込1350円
総本店柿寿賀/奈良市高畑町1119
TEL:0742-20-1717
https://kakisuga.co.jp/
岐阜県大垣市にある柿菓子の老舗、御菓子つちや。代表銘菓の「柿羊羹」をはじめ、たくさんの柿菓子を手がけていますが、なかでも愛嬌たっぷりなのが「宝賀来」です。
本物の柿のヘタがちゃんとついて、見た目も干し柿そのもの。 中は岐阜特産の干し柿が使われており、柿練り羊羹でコーティングしてから表面にイラ粉(蒸したもち米を乾燥させ、細かく砕いたもの)をまぶしてあります。
干し柿のまろやかな甘みが楽しめる上、真ん中に白い求肥餅を挟むことで、もちもちとした食感も楽しめます。干し柿への愛情も感じる一品です。
【宝賀来】1個 税込480円
御菓子つちや/岐阜県大垣市俵町39
TEL: 0584-78-2111
https://www.kakiyokan.com/
※12月末まで販売予定
収穫を終えた柿の木に、ポツンと残っている熟柿を木守柿と言いますが、その名を冠したお菓子が高松市の「三友堂」にあります。聞くところによると、初代の大内久米吉氏は高松藩松平家に仕えていた武士だったそうで、維新後の明治5年に、親しい仲間と共に菓子屋を始めたのだとか。「木守」は2代目の松次氏が考案されました。
小豆こしあんに干し柿を練り合わせ、寒天で固めたものが、やや大きめの麩焼き煎餅に挟んであります。柿あんは羊羹のようなつやがあり、サクッとした麩焼き煎餅の食感の後に、あんの食感と風味を楽しめます。
煎餅の表面にある渦のような焼印は、千利休が楽焼の祖、樂長次郎に焼かせた茶碗のひとつに「木守」と名付けられたものがあり、その高台を模したものと伝わっています。茶席で長く愛されている銘菓、まさに晩秋に味わいたいですね。
【木守】6個入 税込1037円
三友堂/高松市片原町1-22
TEL:087-851-2258
https://www.sanyu-do.com/
季節ごとにさまざまな生菓子を生み出し、多彩なあんで魅了してくれる名古屋の老舗、川口屋のご主人が作ってくださったオレンジ色のきんとんも忘れられない一品です。こちらも「木守」と名付けられています。さまざまな素材で同じモチーフを表現する「幅の広さ」も、和菓子の世界の楽しみと言えましょう。
伊勢芋の
【木守】1個 税込320円~
川口屋/名古屋市中区錦3-13-12
TEL:052-971-3389
https://www.instagram.com/kawaguchiya_758/
プロフィール
髙島屋和菓子バイヤー
畑主税
1980年生まれ、大阪府出身。2003年に髙島屋に入社し、洋菓子売り場の担当を経て、06年和菓子売り場の担当に。京都の和菓子を作りたてのままで提供したいという思いから、人気店の上生菓子を自ら京都で仕入れ、新幹線で運び、夕方に店頭に並べ話題を集めた。全国1000軒以上を巡り、食べた和菓子は1万種以上。著書に「ニッポン全国 和菓子の食べある記」(誠文堂新光社)。ブログ「和菓子魂!」(http://blog.livedoor.jp/wagashibuyer/) Twitter:@wagashibuyer
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