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2024.12.4

【漆 不屈の美5】時計の文字盤 蒔絵装飾

日本人は漆を古くから利用してきた。縄文時代には、主に接着剤として。その後、特有の光沢と耐久性のある塗装材料として建造物や工芸品に用いられてきた。漆や漆器の長期にわたる需要減少、近年の「国産漆」の供給不足など課題はあるが、その美しさや手触り、素材の持つ奥深さは多くの人を魅了し続けている。

海外ブランドと協業

日本の漆は、海外でも注目を集めている。漆器製造販売の「山田平安堂」(本社・東京都渋谷区)は、スイスの高級時計・宝飾品ブランド「ショパール」の腕時計に、蒔絵で装飾した文字盤を提供している。2009年から続いている共同事業だ。

ショパール最高峰とされるラインアップ「L.U.C」の「L.U.C. XP 漆」というシリーズで、これまで20以上の絵柄が制作されてきた。文字盤のキャンバスは、直径わずか3.4センチ。針に触れないよう0.4ミリという高さの制限もある中で、尾羽で華麗に弧を描く躍動的な鳳凰ほうおう=写真=、花や草木の中で遊ぶチョウやハチなど、精密で立体感のある高蒔絵が施されてきた。

山田健太社長(52)は、「漆器は、おわんやお皿など実用的な食器のイメージも強いですが、かつては武士が印籠や刀のさやに蒔絵を施すなど、その華麗さで高い地位を示すために用いられてきた」と話す。現代のステータスシンボルは時計であると考え、ショパール社に提案したところ、クラフトマンシップに共感してくれたという。

山田社長は、「ショパール社が世界の人に蒔絵の美しさ、素晴らしさを伝えてくれるのが非常にうれしい。この時計は漆器が世界で売れるということを示すものであり、漆の未来、可能性がかかっていると思う」と語っている。

(2024年12月1日付 読売新聞朝刊より)

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