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2024.3.7

【手漉き和紙 技をつなぐ・2】石州和紙 ― 地元の楮 丈夫な下張紙(島根県浜田市)

和紙の原材料をすくい上げる(島根県浜田市で)

日本独自の手き和紙の技は世界でも高く評価されながら、後継者不足と原材料の調達に不安を抱えている。伝統を守る技術者を支援するため、文化庁、自治体などは新たな施策を打ち出して少しずつ将来への道を開きつつある。父娘で技術を伝える奈良県吉野町の「宇陀うだ紙」。後継者の育成に早くから取り組みながら販路を広げる島根県浜田市の「石州せきしゅう和紙」。和紙の産地は2月から本格的な生産シーズンに入った。貴重な文化財を守り伝える修理を支えようと、使命感を持って継承に取り組む技術者と原材料の生産、確保の現状を産地から紹介する。

石州せきしゅう和紙は約1300年の歴史を持つ島根県西部(石見地方)特産の手漉き和紙だ。なかでも浜田市三隅町古市場地区は昔ながらの伝統的技術・技法を守り続け、漉きあげた和紙を「石州半紙ばんし」と呼び、文化財修理の原材料として提供している。

石州半紙技術者会の西田誠吉会長(68)は「地元の良質なこうぞの樹皮を原材料に使う。繊維が強固に絡み合い、丈夫な和紙に仕上がるのが特長。文化財の修理では、屏風びょうぶふすまの骨組みに直接張る下張紙として用いている」と話す。西田さんの工房では現在、京都・二条城の襖に用いる下張紙を製作中だ。

石見地方の和紙づくりは農閑期の産業として江戸時代から盛んになった。和紙の産地というと山深い場所が多いが、三隅川河口近くの古市場地区は日本海に近い。北前船が寄港する紙や楮の集散地だったためと伝わる。明治時代には生産者が6000戸を超える一大産地となった。

楮の樹皮から黒い部分を取り除く
楮の繊維とトロロアオイに水を加えてかき混ぜる
板に張って乾燥させる

生活様式の変化などで生産者は激減。現在は4事業者(工房)が営むのみだ。伝統的な紙漉き技術保持者の高齢化や後継者不足、原材料の確保などは生産地共通の課題だが、古市場地区は、4事業者とも家族が後を継いでいる。

さらに浜田市が2015年から和紙職人の後継者の全国公募を始めた。事業者も地域住民に楮の栽培を呼びかけるなど、将来を見据えた取り組みが実った。今では楮は地元産でまかない、ネリとして使うトロロアオイの約8割を地元で生産する。ただ、西田会長は「製作の過程で欠かせない竹簀たけす刷毛はけなどの道具をつくる職人の高齢化が課題として残る。どの一つがなくなっても和紙づくりが途絶えかねない」と厳しい認識を示す。

石州和紙会館で販売されている製品

〈手漉き和紙とは〉

こうぞ三椏みつまた雁皮がんぴなどの樹皮を原材料とする。産地による特性を生かして、下張紙、総裏紙、肌裏紙などにく。絹や和紙に描いた作品の裏に、これらを重ねて張って補強し、掛け軸、巻物、ふすま屏風びょうぶに仕立てる。

文化財修理には、伝統製法を厳密に守る表具用手漉き和紙を使う。奈良県吉野町で製作する宇陀うだ紙、美栖みす紙、島根県浜田市の石州せきしゅう和紙、岐阜県美濃市の美濃紙、埼玉県小川町・東秩父村の細川紙、高知県の土佐和紙などが代表的だ。

2014年、石州和紙のうち楮に地元産だけを使った石州半紙ばんし、美濃市蕨生わらび地区で生産する本美濃紙、細川紙が「日本の手漉和紙技術」として、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。

ただ、和紙の需要は先細りで、いずれの産地も取り巻く環境は厳しい。経済産業省も伝統的工芸品に指定して支援するが、後継者の育成と原材料の確保が、手漉き和紙の技術を伝えていく上で最大の課題となっている。

(2024年3月3日付 読売新聞朝刊より)

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